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涼宮ハルヒの追憶 chapter.4 ――age 16 昨晩は長門のことが気になってほとんど眠れなかった。 自分の無力感から来る情けなさと、それを認める自分に腹を立てた。 眠りについたのは午前五時を過ぎていた。 「キョン君! 起きて朝だよ!」 それでも朝はやってきて、最近かまってやれていない妹が日課のように起こしに来る。 睡眠時間は全く足りず、妹に抵抗する力すらでない。 妹よ、これをいつまで続けるつもりなんだ? 高校生にもなってやってきたら俺はどう対応すればいいんだ? だらだらと学校に向かう。 アホの谷口はこういうときに役立つのだ。 シリアスではない、ハルヒに言わせれば世界で一番くだらないものを 延々と述べるだけの単純な会話。 ほぼ徹夜明けの身体に対する強烈な日差しは殺人罪を適応したいぐらいだったが、 昨日の出来事を夢だと思わせないためにはこのぐらいでちょうどいいのかもしれない。 それより俺は懸案事項を抱えていた。 どうハルヒには説明すればいいんだ? 昨日のことはハルヒに説明できることではない。 長門が消えたなんていったら、この世界を保てるものなのか? ぐるぐると思考をめぐらせても答えは出ず、 結局何もいわないのが上策だろうと結論付けた。 教室でのハルヒはいつもと変わらなかった。 むすっとした表情をキープし、授業をただ聞き流す。 俺は授業のほとんどを睡眠に費やした。 身体は疲れていたし、なにより懸案事項を考えたくないという現実逃避でもある。 この後部室で長門に関する会議が行われると思うと、帰りたくもなった。 ダルダルな授業を終え、放課後に部室に向かう。 さて、ハルヒにはなんて言おうか。 部室に着く。 すでに朝比奈さんと古泉が待機していた。 「こんにちは」 古泉は笑顔で挨拶をした。 「こんにちわぁ」 これは朝比奈さん。やっと朝比奈さんの笑顔で癒されることができた。 昨日は気が動転していて、朝比奈さんの天使スマイルを無視していたからな。 俺が椅子に座ると、 「では、涼宮さんが来るまで少しお話でもしましょうか」 「なんだ」 「長門さんのことです。私達が解散した後、あなたは昨日長門さんにあった。 そして長門さんの家に行った。あっていますね?」 「なぜそのことを知ってる」 「『機関』からの情報です。昨日僕は閉鎖空間にいましたし、ストーキングは不可能です。 しかし問題はそこではありません。 あなたがあの部屋を出た後、『機関』のものが進入を試み、中をのぞくと、 誰もいませんでした。長門さんは消えたのでしょうか?」 「消えたと思う」 「長門さんは消えちゃったんですかぁ?」 朝比奈さんが悲しい顔をして俺を見つめている。 ドアを開ける音が聞こえ、俺達は話を中断する。 「なんだもうみんな揃っているのね」 ハルヒはゆっくりと歩き、団長椅子に座った。 「それじゃあ、始めましょ」 ハルヒは俺と古泉と朝比奈さんをじっと見た。 それから俺達は十分ぐらい黙ったままだった。 ハルヒが足を揺らしているのを俺は見つめていた。 耐えられなくなったのか、ハルヒは突然叫びだした。 「何か有希に関する情報はないの? 役に立たないわねあんたたち! 特にキョン! あんた有希と仲良かったんじゃないの?」 「そこまで仲よかねーよ」 「本当かしら? いっつも有希のことばっか見てたくせに」 「そんなに見てねーよ。お前はなんでそんなにイライラしてるんだ?」 「イライラなんてしてないわよ! あんたがねえ、有希のことを大事にしてるみたいだったから言ったのよ。 でも、あんたに教えなかったってことは あっちはそれほど思ってなかったってことよね?」 ハルヒは意地悪な目で俺を卑下するように見つめた。 「なにをいってるんだお前は。だいた……」 バンッという音と共に隣に座っていた朝比奈さんが突然立ち上がった。 「いい加減にしてくだしゃい! わたしもこんな部活やめてやや、りましゅ! もう、涼宮さんには付き合いきれません! 涼宮さんなんかだいっきらいです!」 「み、みくるちゃん? どうしたの急に?」 「どうもしません! わたしは今日限りでSOS団をや、やめてやりましゅ! もうわたしに関わらないで下さい!」 そういうと朝比奈さんはものすごい勢いで部室を出て行った。 「へ、どうしたのみくるちゃん? なんで?」 ハルヒは呆然と朝比奈さんが去っていったドアを見つめている。 「だいっきらいだとよ。お前に愛想つかして出て行っちまったな。これであと三人か」 「どうして? 何かあたしした?」 「今までの積み重ねじゃないのか?」 俺はハルヒにイライラしていたので、冷たく言い放った。 ハルヒは投げ捨ててあった鞄を拾って、部室から飛び出してしまった。 「どうしたんです? あなたらしくもない。 もう少し冷静にお願いしますよ。 こちらの立場も考えて行動してくれないと困ります」 古泉は明らかに不快そうに言った。 「お前の立場なんか知るか。 お前はハルヒにへつらって、閉鎖空間で神人でも倒してればいいのさ」 ガッ! 古泉は俺に近づいたかと思うと、右手で本気で殴りつけてきた。 俺は壁にぶつかり、座り込んでしまった。 古泉の顔は初めてみる怒りで満たされていた。 「いい加減にしてください! あなたの軽率な行動がどれだけの人に迷惑をかけていると思っているんですか!」 「なんだよいきなり! お前らのことなんか気にしてられるかよ!」 ガッ! 古泉は俺の胸倉を掴みまた殴りつけた。右フックは顔面をとらえた。 「立て! こんなんじゃ足りない! お前は知らないかもしれないがなあ! ……」 古泉はそれ以上を言おうとはしなかった。 古泉は掴んでいた手を離し、 「すみません。でも、軽率な行動だけは控えてください。 今日は僕も帰ります。失礼します」 そう言うと、部室から足早に出て行った。 「くそ痛てえよ。なんだっていうんだ」 口内から出血していた。訳が分からない。 古泉も朝比奈さんも、それにハルヒも。 いったいみんなどうしたんだ? 俺が悪いのか? その日俺は、痛む口を押さえながら家路についた。 家に着くと、妹は出血をしている俺を見て心配していたが、 俺はとにかく自室にこもり、一人になりたかった。 「なんなんだ? なんで俺は古泉に殴られた。 それに朝比奈さんの行動も不自然だったし、 ハルヒにいたっては意味不明だ」 ベッドに横になりながら、今日のことを振り返った。 「俺はどうすればいいんだ? 謝ればいいのか? 馬鹿らしい。そんなことできるか」 古泉殴られたところがまだ痛む。 平和主義者の俺は今まで人に殴られたことなんてなかった。 人と本気のけんかなんかしたことないし、 そういうことはなるべく避けるようにしてきていた。 「くそっ! 頼みの長門は消えちまった。 SOS団も壊滅状態。俺がなんかしたのか? 俺が悪いのか? いや、俺は何も悪くないはずだ」 ベッドで横になっていたせいで少しうとうとしていた。 突然の電話に驚き、そして画面を見る。 「朝比奈さんか。こんな時間になんだ?」 電話にでるか一瞬迷ったが、 朝比奈さんからの電話はでないと世界がなくなる可能性もあるからな。 「はい」 「あ、キョン君。あの、今から話したいことがあるのだけれど」 やっぱり、何か問題でも起きたのか? 電話越しの愛らしい声はいつになく真剣だった。 「あのベンチに来てください」 「いつですか?」 「今すぐです! 早く来てください。お願いします」 分かりました、という前に電話は切れた。 行くしかないだろ。 俺は帰ってきて制服のままだったが、着替えることもせず家を出て、 ママチャリにまたがり、あのベンチに向かった。 最近自転車をこいでばかりだ。しかも全速力で。 息を切らしてあのベンチへ。 世界崩壊の危機じゃなければいいんだがな。 「すみません。間に合いましたか?」 ベンチには朝比奈さんがうつむきながら座っていた。 外はもう真っ暗で、街灯だけが辺りを照らしていた。 「ごめんなさい、急がせちゃって。大丈夫、間に合ってます」 「よかった。横に座っていいですか?」 「どうぞ」 朝比奈さんは少し驚いた様子だ。まだ、うつむいたままだ。 俺は横に座ると朝比奈さんの横顔を見つめた。 綺麗な顔立ち、俺を満たしてくれる。 なんでこんなに丁寧に作られているのだろう。 朝比奈さんを見るのをやめて、街灯を見た。 黄色い光を放つ街灯の周りを蛾が四匹ほど飛び回っていた。 そして、考えた。 俺は朝比奈さんに聞いておかなければならないことがある。 なんで今日あんなことを言ったんだ? 「あの(あの)、朝比奈さん(キョン君)」 こういう時に限って人っていうのは重なるものである。 「朝比奈さんからどうぞ」 「いえ、キョン君から」 しばしの沈黙。俺から話すことに決めた。 「分かりました。聞きたいことは一つです。 なんで今日あんなことをいったのですか?」 「それは……」 「今まではハルヒの機嫌をとることでSOS団は成り立ってきた。 でも、朝比奈さんは突然ハルヒを突き放すようなことをいって出て行った。 もしかして、これも規定事項とはいいませんよね?」 「今回は未来からの要請がありました。涼宮さんから離れなさいって。 そして離れるにはなるべくきついことを言わないといけなかったんです。 涼宮さんはとても強い人ですが、とても打たれ弱いんです。 ましてやわたしみたいにいつも可愛がっていた人に嫌われるのはとても悲しいことでしょう?」 朝比奈さんは泣き笑いみたいな顔で俺を見つめた。 「悲しいことですよね」 「そう。できればしたくなかったんです。 わたしは涼宮さんが大好きだし、SOS団のみんなも大好きなんです」 朝比奈さんはうつむいて、声を震わせながら言った。 「みんなと一緒にいられなくなっちゃいました。 ああ、なんでこんなに突然だったんだろう。 まだやりたいことはたくさんあるのに。 でも、いつかは別れる時が来るの」 「いつかは別れる時が来る」 俺は朝比奈さんの言葉を復唱した。 「分かってたんです。こんな風に悲しくなるっていうのは。 でも、SOS団での楽しい日々のおかげでそんなことは忘れてました。 最初にこの時代に来た時、誰とも仲良くならないつもりでいたんです。 だって、絶対別れが来るって決まってるんですよ? だけど、SOS団や鶴屋さんとはいつの間にか仲良くなっていました。不思議な人たちです」 「鶴屋さんは誰だろうと友達になれそうな人ですからね」 「そうですね」 「ところで、朝比奈さんが聞きたかったことってなんですか?」 「あ、はい」 朝比奈さんは両手を重ねていじりながら、ぽつぽつと言った。 「わたし自身のことなんです」 「朝比奈さんのことですか」 俺がそういうと朝比奈さんは俺を真っすぐに見た。 その顔には涙が伝っていた。 「わたし、すごく悔しいんです」 「悔しい?」 「だって、他のSOS団のみんなはちゃんと頑張ってるんです。 わたしだけ、なにもできないんです。 わたしはお茶を煎れてあげるぐらいしかできない。 涼宮さんの言うことを聞いて、衣装を着るぐらいしかできない わたしは未来に動かされているだけで、何もできない。 だから、せめてみんなを癒してあげるくらいしたかったの」 朝比奈さんは一呼吸置いて続けた。 「なんで、こんなことキョン君に言っちゃうんだろう? わたしはこの悔しさを持って帰るつもりだったのに」 「持って帰る? 朝比奈さん、未来に帰っちゃうんですか?」 俺はすでに分かっていた。 ハルヒの能力がなくなれば、朝比奈さんはこの世界にはいられなくなる。 「そうです。キョン君にお別れを言いに来ました」 「やっぱり、朝比奈さんもいなくなるんですね」 「やっぱりって、あ、そうか長門さんから聞いているんですね」 「そうです。長門はハルヒの能力が収束しているって言ってました」 「そうですか」 「どうして長門も朝比奈さんも、もうちょっと前に言ってくれないんだ。 そうしたらみんなでお別れパーティーの一つだってできたかもしれない」 俺はどうしても朝比奈さんを直視することはできなかった。 「すみません。禁則事項です」 それに、と朝比奈さんは続けた。 「今ここにいるのも本当は禁則事項なんです わたしが予測不能の行動に出るといけないから。 でも、わたしはキョン君に伝えてから帰りたいです」 「伝えてから?」 「本当は言っちゃいけないことなんです。 最重要の禁則事項なんです。 でも、言わないと。私はもう帰らなきゃならないから。えっと」 朝比奈さんはそこまで言うと、突然頭を抱え、じたばたし始めた。 「あ、ダメ! そんな止めて! もうだめなの?」 朝比奈さんが何を言おうとしてるかは分かった。 それはハルヒにとってはおそらく最悪の禁則事項だろうと思われた。 でも、今は横から抱きついて、首に手を回している朝比奈さんの体温を感じていたかった。 ぎこちないその行動を抱きしめ返すことはできなかった。 「キョン君。わたし、ねえキョン君、…キョン君!」 朝比奈さんが耳元でささやく。 俺は興奮していたが、朝比奈さんの言葉を冷静に聞いた。 「ごめんなさい。俺は答えられそうにありません」 「ご、ごめんなさい」 朝比奈さんは俺から離れると、 「ごめんなさい。あっちを向いてもらえますか?」 俺は朝比奈さんが指差したほうを見る。 朝比奈さんとは反対側のほうだ。 向かいないと朝比奈さんに迷惑がかかるだろ。 「時間です。ごめんなさい。ありがとう」 振り返ると、朝比奈さんはいなかった。 俺は立ち上がり、ポケットに便箋が入っていることに気付いた。 俺は破らないように丁寧に開けた。 ――キョン君、わたしはあなたが好きです。 でも、忘れてください。 ごめんなさい。なにもしてあげられなくて。 ごめんなさい。やくただずで。 ありがとう、キョン君。 また、会えるといいですね。 PS.文章短くてごめんなさい。 好きです。―― それは手紙という形をとる。 口に出せないもどかしさ。朝比奈さんの気持ちが少しだけ伝わった気がした。 「朝比奈さん、あなたは俺のアイドルです」 ごめんなさい。また会えるよな? 街灯の明かりだけが残された惨めな俺を優しく照らしてくれた。 俺はその場で一時間ほど呆然と立ち尽くしていた。 一時間というのは家に帰ってから分かったことなのだが。 自分の部屋のベッドに寝転ぶと、俺はようやく事の重大さに気付いた。 長門が消え、朝比奈さんも未来へと帰った。 「次は? 古泉か? だが、古泉はこの世界の人間だ。消えることはない。 もしかして? いやそんなことはないだろ」 自問自答を繰り返しても、古泉に対する答えは最悪のものとなった。 今日の古泉はいつもとは違った。 柔和な笑顔は消え、鬼気迫る表情で俺を殴った。 おそらく古泉もハルヒの能力が消えることによって、 何かしらの被害を被っているに違いない。 「俺はどうなるんだ? ハルヒの能力がなくなることで俺も困ることがあるのか? そもそも俺は関係ないだろ。 ただ、あのSOS団のメンバーで集まれないだけだ」 長門に会いたい。それに、朝比奈さんにも。 会ってまた馬鹿なことがしたいんだ。 俺はその日、やるせない気持ちで眠りについた。 次の日、ハルヒは学校に来ていた。 昨日のことが何もなかったかのように平然と授業を受けていた。 俺はなんだかやる気も出なくて、いつものように授業を寝て過ごした。 帰り際、ハルヒが、 「キョン一緒に帰るわよ、話したいことがあるの」 というので、仕方なく俺はハルヒと帰ることに決めた。 俺はなるべく一人でいたかったのだがな。 で、帰り道。 ハルヒはうつむいたまま俺の前を歩いていて何も話す気配はない。 そのまま、ずっと黙ったままだった。 踏み切りに着くとハルヒは立ち止まり、振り返った。 そして俺をゆっくりと見つめた。 「ねえキョン。あたしおかしいかな?」 「どうした気でも狂ったのか? もとから狂ってる気もするが」 「違うの。あたしはいつだって自分のことを正しいって思ってるわ。 むしろ他の人のがおかしいぐらいよ。 楽しいことを探して、楽しいことをする。すごくまっとうじゃない。 でも私がいってるのは違うの」 ハルヒは続けた。 「前からおかしいとは思ってた。 例えば去年の映画撮影。本当に桜が咲くと思う? 季節は正反対なのよ? その時あたしは『桜が咲いたら絵になるな』と思っていたの。 他にもたくさんあるわ。 雪山でのあの白昼夢だってそうだし、あんなの白昼夢だけで済ませると思う? 実際に体験してしまってるのに、それはないわよね。 でもね、あたしはなにも言わなかった。 言ったら、楽しいことが逃げていってしまう気がしたから。 このまま知らないふりをし続けて、SOS団のみんなで楽しくやっていきたかったの。 でも、それももう終わり。 有希もいなくなっちゃたし、みくるちゃんも出て行っちゃった。 あたし何か悪いことしたのかな? ただあたしは素直に楽しいことだけをやっていきたかっただけなのよ」 俺は押し黙ったまま立ち尽くしていた。 ハルヒは気付いているのか? 気付いたらどうなる? 今すぐ世界が消えてなくなるなんてことはないよな? 「キョン、答えて。 あたしには何かしらの不思議な力があると思うの。 それだけじゃない。有希だって、みくるちゃんだってどこか変。 それぐらいあたしでもすぐに気付くわ。 気付くべきイベントはたくさんあったもの。 これで気付かないほうが変だわ。 そして今回のことで確信したの。ああ、あたしは正しかったんだって。 キョンは何か知ってるんじゃない?」 俺は呆然としてしまっていた。 どうしようもない。ハルヒは気付いてる。 仕方がない。仕方がない。どうしようもないじゃないか。 答えるべきなのか? 答えてそれで? 世界は? 「もういい。帰る」 結局俺はなにも言うことができなかった。 ハルヒは寂しそうな顔をして、立ち尽くす俺を見つめていた。 「キョンはやっぱりキョンね」 それだけを言ってハルヒは走って帰ってしまった。 ごめん、ハルヒ。何も言えなくて。 怖かったんだ。 古泉は言った、ハルヒが自らの能力を認識した時、予測できないことが起きる。 俺はどうすればよかったんだ? 俺は決定的な答えを持ち合わせてなどいなかった。 ただ、ハルヒの一人語りを聞き続けただけだった。 傍観者でいたはずが、当事者に代わっていた。 でも、力なき当事者だ。 何にも抗うことができず、将棋の駒のようにただ動かされるだけだ。 それが、一般人ってものじゃないのか? 知らない間に動かされて、利用されて、捨てられる。 俺はそんな普通の人なんだよ。 悪いか? 俺は悪いのか? 誰か代わってやるよ、こんな役。 朝比奈さんは泣いた。 自分は何もできないと。自分はただ動かされているだけで、何もできない。 だから、せめてみんなを癒してあげるくらいしたかったんだって。 それがわたしの役割だったんだって。 くそっ! 俺は何をすればいい。俺の役割はなんだ。 俺はどうすれば。 また、あの日のSOS団に戻すことができる? chapter.4 おわり。 chapter.5
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火曜日、朝。 ただの夢なのかそれとも悪夢なのか、そもそもこれは夜に見ているものなのだろうか、もしかしたら白昼夢のただ中にいるのではという感じの夢を見たあげく、妹の容赦ない目覚まし攻撃で俺はどうやらあれは夢であり、こっちが現実らしいという自覚を得た。内容は気持ちのよろしくない夢を見たという輪郭程度しか残っていないが、こちらで目覚めても俺はまだ夢の中にいるような気分だった。 朝食を喰って鞄をひっさげ家を出て、北高に続く地獄坂を登る俺の足取りは、ここ一年で最悪級の重さだった。どうせなら今日一日くらい仮病を使いたかったのだが、考えてみれば仮病は先週の金曜日に強行したばかりであるのでそうも言っていられず、俺はせめて不快感と疲労感を顔の全面に押し出して山登り集団に混ざった。 さて、学校に到着して最初に向かったところと言えば部室棟に他ならない。どうせ受け入れなければならん事実は早々に知っちまったほうがいいのだ。たぶんこう考えていられるうちは、俺は大丈夫だろうよ。 古泉のボードゲームがなくなっていたりした場合、俺はどういう反応を取るだろうかという何の役にも立たない想像をしながら、順当に部室に辿り着いた。こういうときばかり谷口や国木田とも会わない。仕方がないので俺はしばし呼吸をととのえ、注射器を目の前にした子供のように目を閉じて扉を開いた。 「あれっ?」 とまあ、のっけにそんな言葉が出たのも無理はないと思って欲しい。あとは絶句である。 いや、そう言うと語弊があるかもしれない。ただ言葉がでなかったのだ。隅々まで目をやっても、俺は三点リーダ状態から抜け出すことができなかった。 何が起こったのか。俺の頭はようやく稼働し始めた。 まず、俺は時間遡行でもしちまったんじゃないかと疑った。しかしそれはホワイトボードに書かれている文字によって否定できる。「明日合宿用品買い出し、費用各自持参」とハルヒの字で書いてある。昨日、俺とハルヒと古泉の三人の部室でハルヒが宣言した通りだ。つまり今日は昨日の明日であって、時間遡行ではないらしい。 次に俺は世界が変わっちまった可能性を考えた。しかしそれもどうかと思う。世界改変をやってのけるようなヤツは今、周防九曜ぐらいしか存在しないのだ。ただしあいつがそんな芸当をできるという保証はないし、それも今日のこのタイミングで今さら、とも思う。 最後の可能性として、俺はすべてが終焉を迎えてしまったということを考えた。俺の代わりに誰かが事件を解決してくれたとか、あるいは犯人――周防九曜が侵攻を中止したとか。 だってなあ。そうじゃなけりゃ、説明がつかんだろ。 部室には、長門の本、朝比奈さんのハンガーラック及びコスプレ、古泉のボードゲーム各種がすべてあったのだ。 何だそりゃ、と思ったね。気抜けしたと言えばその通りである。古泉のボードゲームが消えていたらどうしようなどと悲観的なことばかり考えていたから、さすがに元通りになっているというのは考えも及ばなかった。いまだに俺の頭の中と外にはハテナマークが飛び回っているが、力の篭もっていた肩からは力がどんどん抜けていった。 改めて部室を見回す。インスタントコーヒーのパックは茶葉の缶に戻っているし、立方体のようなハードカバーは十年も前からそこにあったかのように整然と本棚に並んでいる。古泉の持ち込んだボードゲームは昨日と同じ場所にあるし、中央の机には団長の三角錐がある。鶴屋山原産の七夕の笹には叶うかどうかも解らない五つの願いがぶら下がっている。まるで元通りである。俺は何か悪い夢でも見ていたのだろうかと疑いたくもなってくるね。もしかすると、先週の金曜日から催眠術か暗示にかけられて幻覚を見ていただけだったのかもしれん。思い出せばそんなもんだ。俺の中学校三年間並にあっけなく、そのあっけなさを疑いそうである。 「しかし、ほんとに元通りだよな……」 だが、疑うべきところは一つもないのだ。デスクトップパソコンはしっかり鎮座していて何代も前のものではないし、ここに人員が集まればそれで間違いないと思えるくらいに不自然な点はない。しかし俺の内部に魚の小骨が喉にひっかかって取れないようなわだかまりみたいなのが残っているのは、これがあまりにも唐突すぎたからなのだろうか。 なぜか元に戻った部室。俺が相応のことをしていれば納得もするだろうが、俺は本当に特に何もしていないのだ。それなのに、何故? 昨日の夜から今朝にかけて「何か」があったことは確かなのだが……。 まあいい。どうせ長門や古泉はいるんだろうから、昼休みか放課後にでもゆっくり話を聞かせてもらおう。 俺はどうも釈然としない気持ちのまま、気分を浮つかせることもできずに部室を後にした。 * いかんな。 冷静に考えなければならないだろう。長門の本があったり急須があったりボードゲームがあるだけでは本人が戻っているという確たる証拠にはならない。ここで全員元通りだと思いこんではアウトである。都合がよすぎることの裏には高確率で怪しいことがあるし、視覚情報による思いこみは最初っから疑ってかからなければならん。探偵が推理を行うときの基本事項である。 部室のあらゆるアイテムが元に戻ったように見えた。少なくとも俺の記憶、俺の目を信じるとするならば。 しかし俺は探偵などではない。古泉ほど思慮深い頭を持っているわけでもないから、せいぜい俺は探偵のパシリ止まりさ。考えすぎるのは性に合わん。行動に移すほうが案外、何倍も楽なのだ。 そしてその行動の予定なら立っている。別段難しいことではない。長門や古泉のクラスに行ってみればいいのだ。そこに奴らがいたら何が起こったんだと問いつめればいいし、いなかったらいなかったで対抗策を打つ必要がある。 俺はそんなことを一限二限を聞き流しながら考えていた。次の休み時間になったら行けるかと思っていたが、その計画はあえなく破錠した。 後ろのハルヒが俺を離さなかったからである。 「キョン、夏合宿に必要なものって、何だと思う?」 こいつの目の輝きは夏が近づくにつれて増していくようだった。考えていることはどっかの田舎の小学生とたいして変わらん。 「さあな。合宿を楽しむ心の余裕なんじゃないかな」 俺の適当な解答にハルヒはしかめっ面をして、 「そんな抽象的なことを言ってるんじゃないの。もっと現実的で具体的なことよ。バーベキュー用の木炭とか紙コップとか紙皿とかね。いいキョン? 心意気なんてのは後からついてくるものなのよ。合宿を楽しもうとしても肝心の合宿地がなければ合宿は楽しめないでしょ?」 そうかい。俺なら部室で合宿でもいっこうに構わんぜ。それに木炭ならガスコンロで代用可能だし、紙コップや紙皿だって向こうにはもっと豪華なグラスや食器類がいくらでもあるだろ。 「そんなんじゃ雰囲気が出ないでしょ。考えてみなさいよ、屋外のバーベキューで陶器の皿使って食事するヤツがどこにいるのよ。こういうのは雰囲気と心持ちが大切なんだから」 「さっきはそういうのは後からついてくるものなんだとか言ってなかったか?」 「いいのっ。とにかく今日はどっか大型のホームセンターとかに行かないとダメよ。木炭を買わないといけないし、紙コップも部室にあるやつだけじゃ足りないしね。行ってみたら他に欲しいものも見つかるわよ」 そういうのを無駄遣いと言うのだ。 「キョン、あんた他に夏合宿でやるのに必要なものとか思いつかない?」 「あー、UFO召喚の儀式」 と言ってから我に返った。ついワケの解らんことが口をついて出た。何を言ってるんだ、俺は。 「うーん。それもやってもいいけどさ。キョンに団員としての自覚が芽生えてきたのはいいことだけど、あいにくスケジュールが埋まっちゃってるのよ」 「構わねえよ」 投げやりに言って俺は前を向いてほおづえをついた。窓ガラスに映る俺は不機嫌なツラをしていた。 何を俺は今さら団員の自覚なんぞを獲得しているのだ。まったくもってどうでもいい。 ハルヒが俺の提案を却下したことが、俺の胸の奥に魚の小骨のようにチクチクと突き刺さっていた。なぜハルヒはそんなにもあっさりと非日常を捨てやがるんだ。 俺にはできない。 古泉に諭されて、ハルヒと話して、佐々木と語って、俺もようやく認める気になった。どうしようもない、自然の摂理みたいな不条理さによる葛藤の渦が俺の中にできあがっちまっていたのだ。俺の心理は今や非日常の基盤の上に成っている。中学生の頃とは違う。そして、それの崩壊は論理基盤の崩壊、ゲシュタルト崩壊と同意なのだ。しかもマジで壊れようとしている……。 俺は、憂鬱だった。 * 昼休みになった。 昼休みになったので俺はようやく動く気力を得た。というか、動かねばならなくなった。堂々巡りの俺の思考を断ち切るために俺は勢いよく立ち上がった。 「あ、おいキョン。俺昼飯は学食にしようと思ってるんだけどよ」 「そりゃいい。国木田も連れていってやれ。俺は部室で喰う」 谷口を一秒で処理すると鞄の中から弁当を取り出して教室を飛び出した。 長門がいるのだとしたら昼休みは部室にいるに違いない。もし教室にいたとしても俺が望めばそうしてくれるのが長門流なのだ。さんざん世話になった。 階段は一段とばしである。鬱屈して暗くなった頭を振り回して、廊下も駆け抜けた。 文芸部というプラカードがぶら下がっている部室の前で俺は立ち止まり、一応のことノックして、中から「どうぞ」と男の声がしたのを確認してから俺はドアを開いた。足を踏み入れるとともに、妙にどろっとした空気に包まれた気がした。 「どうしました」 そこには――、 「どうしたの、キョンくん」 古泉が、そして朝比奈さんがいた。 まるで俺が来るのを待っていたかのように。 * 「朝比奈さん……」 俺の口から声が洩れた。 パイプ椅子に座ってこちらを見ているそのお方は朝比奈さんで間違いなかった。栗色の髪の毛に可愛らしい顔、他の何者に真似できるものではない。視線をずらせばハンガーラックやコスプレ一式も朝に見たままの状態でちゃんとある。本当に戻ってきたのか。 「長門は」 窓辺にある長門の特等席に目をやる。しかし、そこに長門の姿を発見することはできなかった。本棚には長門本があり、七夕の短冊も長門の分が復活しているというのに。肝心の長門はどこにいったんだ。 俺が次に発する言葉をどうするか迷っていると、 「長門さんならいましたよ。廊下を歩いているのを見ましたから。珍しく部室には来てませんけど」 古泉が平淡な口調で言った。 「本当か!」 「本当です。どうしたんですか、そんなに驚くべきことでもないでしょう」 バカな。これが驚かずにいられるか。お前も金曜日から長門がいなくなってるらしいのは知ってるだろ。土曜日曜月曜とさんざん考え倒したあげくに、今日になったら突然長門が復活してるんだ。これは驚かないほうがおかしい。とすると、お前の頭はおかしいんじゃないのか、古泉。 「何を言ってるんでしょうかね。長門さんなら金曜日から今日までずっといますよ。おかしいのはあなたの頭のほうじゃないんですか?」 「なっ」 古泉にバカにされるのは稀以上に珍しいことだが、そんなことはどうでもいい。仕返しなら後日いくらでもしてやる。 「まさか、朝比奈さんもそうなんですか? 朝比奈さん、昨日も部室にいましたか?」 「いたけど、それがなあに?」 「古泉」 俺は嫌な予感を押し殺して再度古泉に問う。 「お前は昨日、この部室で何をやってた。パソコンをいじったりしてないか?」 「さて。昨日はあなたとオセロをしていましたけどね。ついでに、僕が全勝しましたよ」 最後の情報はどうでもいい。 「部室でオセロしてたってのは本当か?」 古泉は薄気味悪い笑いを浮かべて、 「はい」 俺は後ずさりして、今さっき入ってきたばかりの扉にもたれかかった。 何てこった。 刃物を手にした殺人犯に追いつめられた、悲劇の主人公のような心境である。全身の力が抜けて、そのまま床に尻餅をついた。古泉と朝比奈さんは俺の存在を無視するかのようにこちらには目もくれない。 違ったのだ。決定的な食い違いがあった。そうそう都合のいいことなんてありゃしない。皮肉にも、すべてが元に戻ったみたいな錯覚を受ける物品だけを設置しやがったのだ。そしてそれはやはり錯覚に過ぎず、砂上の楼閣のようにあっさりと崩れ落ちた。絶対に必要なものは、この部室には一つもない。戻ったかと思ったら古泉も朝比奈さんも、昨日や一昨日の記憶を持ってやがらない。 「まだだ」 しかし、古泉や朝比奈さんの記憶が正しくなかったとしても俺にはまだできることがある。後悔している暇などない。俺は床に手をついて立ち上がると、団長机にあるデスクトップパソコンに向かった。SOS団サイトに誰かのメッセージが残っていてくれればそれだけで心強い。古泉や朝比奈さんに証拠としてそれを示すこともできる。 パソコンが起動するまでのわずかな時間に、俺は二人に訊いた。 「古泉、お前は何者だ。ただの人間じゃないだろ。『機関』という言葉に聞き覚えはないか?」 俺の質問に古泉はまったく動じず、将棋の駒を二、三手動かしてから振り返った。 「さあ、何を言ってるんでしょうかね。僕はただの人間です。機関という言葉なら知っていますが、それがどんな意味を持つのかは知りません」 そう言った。俺は舌打ちして制服姿でパイプ椅子に腰掛けている上級生に向き直り、 「朝比奈さん、あなたは何者ですか。未来人ですか?」 朝比奈さんも全然動揺する様子を見せなかった。編み物の手を止めないまま、 「未来? 何のことでしょう。あたしはあたしですよ?」 「TPDDは? 時間平面とか禁則事項とか知らないんですか?」 「知りませんけど」 「STC理論はどうだ。全部あなたが教えてくれたことなんですよ」 「……キョンくん、どうしたの?」 朝比奈さんにまで頭を疑われた。ハルヒが消えたときに味わった恐怖が、全身を撫でるように走り抜けていく。 これは何だ。世界改変か? 俺を残して世界が変わったなんてのは金輪際ごめんだぜ。ハルヒも長門も朝比奈さんも古泉も、味方がいなくなって一人になったときどんなに大変かを、俺は知っている。 「おい古泉、長門は何者だ。あいつは宇宙人じゃないのか? 俺を朝倉から守ってくれたり、幽霊モドキを退治したりしてくれただろ。違うか?」 しかし古泉は面倒くさそうに首を横に振った。 「何を言っているのか解りませんね」 「じゃあ説明してやる。お前や長門がどんな人間だったのかを、すべてだ。古泉、お前はこういう話が好きなんだろ? ファンタジックで興味深い話だと思うぜ。どうだ、聞く気はないか?」 いくら記憶がないと言っても古泉のことだ、てっきり乗ってくるものと思ったが、 「けっこうです。そういうことなら勝手に一人語りでもしててください。僕は将棋をしていますので」 何ということだ。俺は驚いた。性格まで変わってるのか。古泉は微笑オフの状態で、ほおづえをついてつまらなさそうに将棋盤と対峙している。 やっぱりこいつは古泉ではない。昨日、ここで俺と一緒にいた正常な古泉は、消えちまったのだ。 おそらく、周防九曜によって。 消されちまったのか? いや、じゃあ目の前のこいつらは……。 パソコンが立ち上がった。 目的のページはすぐに見つかった。マウスをロゴマークに重ねると、やはりどこかのページにリンクされていた。クリックしてパスワードに『涼宮ハルヒ』と入力し、そこに昨日のままの文章があることを確認する。ひょっとしたらメッセージが変わってやしないか、と思ったがダメだったか。 俺は古泉と朝比奈さんをパソコンの前に呼んで、 「古泉、それに朝比奈さん、この文章に見覚えはありませんか? あるいは、長門がこんなページを作っていたのを見たとか」 「さあ、僕は知りませんね」 「あたしもです」 それだけを業務連絡でもしているかのような淡々とした口調で答えて、俺が他に何か聞くことはないかと考えているうちに二人ともパソコンの前から去ってしまった。 おかしい。二人ともまるで性格が変わっちまってる。感情が薄くなってるというか冷たいというか。確かにこいつらは本当の朝比奈さんや古泉ではない。性格が違うのは当然だ。こいつらは朝比奈さんや古泉ではないのだから……。 そこまで考えて、俺は何か引っかかりを感じた。 待てよ。じゃあこいつらはいったい何なんだ。 世界改変か。別の世界の古泉や朝比奈さんか。 ありえん。こいつらは性格まで変わっちまってるのだ。世界改変で長門の性格が変わったのを一度だけ見たことがあるが、それはその必要があったからで、こいつらの性格を変えたところで何の利益も生まれん。性格を変える必要などない。 じゃあ、こいつらは何者なんだ。俺の目の前で一人将棋を、編み物をしているこの二人はいったい誰なんだ。 朝比奈さんではない朝比奈さん。古泉ではない古泉。 俺の記憶の奥底で何かが騒ぎ立てている。以前、俺はこんな経験をしたことがある。 そうだ。朝比奈さんではない朝比奈さんと、俺は会った。 年末の雪山の夢幻の館で、算式の解読のために長門が俺たちに見せた幻影。 あの朝比奈さんには、左胸のホクロがなかった――。 「朝比奈さん、左胸を見せてくれませんか?」 俺がとっさに言うのと同時に、背後で部室の扉が開く気配がした。長門かハルヒか、まあどちらでもいい。 朝比奈さんはふふんと妖しく笑うと、ためらいもなしにセーラー服を脱ぎだした。その横では、古泉が何事もないかのように将棋を指している。やはりこれは朝比奈さんではないし古泉でもないのだ。こんなことはありえん。 朝比奈さんがセーラー服を脱ぎ終わり、ブラジャーの状態で豊かな胸を俺に見せつけてくる。失神モノではあるが、今は失神している場合ではない。抱きつきたい欲望を抑えて、胸を凝視する。 その左胸にはホクロが――。 なかった。 俺は言葉を失い、顔を引きつらせて後ずさりした。朝比奈さんが、そして古泉がこちらを見て不気味に笑っている。 こんなところにいてはいかん。 本能だ。朝比奈さんの胸を間近でもう少し眺めていたいなどという願望はカケラもなかった。早く逃げ出したほうがいい。この二人にどんな魔法が使えるのか知らんが、一般人の俺が太刀打ちできるようには思えない。 振り返って扉に手をかけようとしたところで、何かにぶつかった。部室に入ってきたハルヒか長門にぶつかったのだろうと思ったが、違った。俺はそいつの顔を見て驚愕し、戦慄が体を駆け抜けたのを感じた。気持ち悪い汗が滲んだ。 「お前――」 絶対零度の雰囲気をまとっているそいつは、衝突した俺に目もくれずに無言でたたずんでいた。 光陽園学院であるはずの制服が、北高のセーラー服に変わっている。 「やあ、長門さん」 古泉がそいつに声をかけた。長門だと? こいつが? 俺の思考は混乱しながらも、ようやく一つの答えをはじき出した。 犯人がようやくはっきりしたのだ。 「そうか……。やっぱりてめえが……」 「――わたしは――――観測する。力を――――わたしが」 観測する、じゃねえ。しらばっくれんな。長門を、朝比奈さんを、古泉をどこにやったんだ。代わりとばかりにこんなバケモノみたいな朝比奈さんと古泉を作りやがって。そして自分は長門になったつもりか。いい加減にしろ。 俺が罵詈雑言を並べ立てるのも無視して、そいつはひたすら突っ立っている。モップみたいな髪の毛で、大理石のような双眸で。 周防九曜が、ここにいた。 俺は弾かれたように部室を飛び出した。後ろを振り返らずに走り出す。 俺のたいしてアテにならない直感が、あいつと一緒にいるのは危険だとしきりに叫んでいたからである。あの幽霊以下の存在感を誇る九曜の後ろで、偽朝比奈さんと偽古泉が俺を見て嘲笑うような表情をしていたのも正直怖かった。相手は地球上の礼儀と一般常識が一切通用しない連中だ。あの朝比奈さんと古泉が何者なのかはっきりとは解らないが、九曜の手下的存在であることは間違いない。だとしたら、雪山で長門が見せた幻の朝比奈さんよりも遥かにタチが悪いだろう。 部室はひたすら遠ざかる。俺が人並みの速度で逃走したところで九曜が相手では逃げようもなさそうだが、俺の目がとらえる限りでは部室の扉が開いて中から誰かが出てくるようなことはなかった。 一安心か。 「おわっ」 後ろを振り返りつつ走っていたら、前方不注意でまた人にぶつかった。悪いな、と手を合わせて立ち去ろうとしたが、俺はその顔を見て立ち止まらざるを得なかった。 九曜が先回りしていたのでも、ハルヒが俺の腕をつかんでいたのでもない。まったく予想外な人物だった。北高のセーラー服をまとった女子。俺は牽制すべきかと一瞬思って距離を取ろうとしたが、今さら牽制してどうにかなるものではないと思い直して足を引っ込めた。 なぜお前が北高のセーラー服を着てるんだなど訊くべきことは山ほどあったが、意外なことに俺の口をついて出たのは疑問ではなかった。 「遅え」 絞り出すような声が出た。憎悪が破裂した水道管のごとく、止めどなく溢れ出した。 「遅えんだよっ!」 ドラマなんかでよくある、襟首を掴む力なんてのは俺には残っていなかった。そいつの肩に手を置いて俺は俯いた。その肩を突き放せば、そいつは窓ガラスに体当たりすることになったのだが、俺はしなかった。 ヤツは何も言わなかった。まるで俺に怒れと命令でもしているかのように、である。皮肉なもんで、俺は相手に言い訳する気がないのを知ると憎悪や怒りの類が醒めちまったのを感じた。 しばらくして俺は顔を上げた。 「橘京子。お前は何か知ってるんだろ。だからここに来たんだ」 その女――北高セーラー服仕様の橘京子はうっすらと微笑んだ。古泉のような超能力者と一緒にこいつまで消えてなかったのはなぜか。まあそんなもんはさしたる問題ではないが。 橘京子は廊下の壁にもたれかかったまま、 「ええ。空間座標と侵入コードをようやく解析できました。コードが複雑になっていたのでずいぶんと時間がかかってしまいましたけど。今日はあなたにそれを伝えるために来たんです」 だから、それってのは何のことだ。てめえは人をじらすのが趣味なのか。 「まさか」 橘京子は苦笑し、 「けど行けば解ると思うわ。そこにはあたしよりもずっと説明上手な人たちがいますからね。詳しい説明ならその人たちから聞いてください。あたしはそこまでの案内役です」 「馬鹿。遅えんだ。早く来やがれ」 橘京子は黙って頭を下げた。その頭頂をかかと落としで叩き割ってやりたかったが俺はやらなかった。とっとと案内して欲しかった。 橘京子が俺をどこかに案内するらしい。こいつが案内役になるというと、あそこしか思い浮かばないのは俺の頭が変なのか。そんなことはないだろう。超能力者、とりわけ橘京子の専門はあそこしかないのだから。 俺は充分に息を吸って、 「佐々木の閉鎖空間にでも連れていくつもりか?」 春の喫茶店で連れて行かれたクリーム色の空間を思い出す。ハルヒの閉鎖空間に比べれば平和的だったが、行こうと誘われて行きたい場所ではないね。 橘京子は胸のうちを読まれてしまったような表情をして、 「ええ。そんな感じの場所です。勘が鋭いんですね。ただし制作者は佐々木さんではなくて、別の人ですよ。だけど、なぜかあたしの持つ能力で入れるように作られていたの」 まさかハルヒと佐々木以外で意図的にあんな空間を作りたがる奴がいるとは思ってもみなかったが、今の焦点はそこではない。わざわざ橘京子が入れるようにしたのもとりあえず無視だ。 「それはどこにあるんだ。俺を連れてく気なんだろ? 前置きはいいから、とっとと案内してくれ」 「案内するまでもないんですけどね」 橘京子は俺が走ってきた廊下の向こうを指さし、 「その空間が発生しているのは部室です。もちろん、あなたがたSOS団の部室ね」 俺はハッとして息をのんだ。 『橘京子を連れてこの場所へ。わたしはここにいる……』 そういうことだったのか――。 部室に発生した異空間。橘京子が侵入できるのに佐々木が作った閉鎖空間ではなくて、創造主は別の人間らしい。そしてこの長門のメッセージ。わたしはここにいる。ここというのはピンポイントで部室のことなのだ。 間違いない。その空間には長門がいる。 「じゃあ行きましょうか。あなたもあちらの人も、早く会いたいでしょうからね」 「待てや」 橘京子が何でしょうと振り返る前に、俺はヤツの頭をはたいた。ヤツが驚きの色を隠せずにこちらを見ると、俺は言ってやった。 「お前が遅いせいで消されちまった二人と、それから俺の心配料をまとめて一発でいいにしてやる。ありがたく思うといいぜ」 とか言いながらも、俺は本当は顔を三発ぐらいぶん殴ってやりたかった。これでも、レディーに気を遣ってやったんだよ。 橘京子はまた黙って頭を下げると、俺が走ってきた廊下を引き返し始めた。
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このノートに名前を書かれたものは死ぬ と言うノートを死神が人間界に落とし 退屈な天才少女 涼宮ハルヒがノートを拾い、 犯罪者を一掃し、犯罪を世の中から消し、 犯罪のない世の中を築こうとする、 皆からはキラと呼ばれていた しかし、その行く手を弾むもの、 世界の名探偵Sが動き出す、 ハルヒはKを殺すため Sはキラを捕まえるため 天才VS天才の勝負がはじまる。 本編(作者.やべ酉きえたんだ^^;) 第一話 始まり 外伝(下記は編集自由) デスノートででてきた者を置きまくってます _________________________________________________________________________________________________________
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1乙 「やあ、おはよう。1乙。21スレ目、だね。21といえば、ブラックジャックを思い出すね。 知ってるだろう? ほらカジノで遊べるトランプのゲームさ。カジノのゲームにしては珍し く、勝つことが不可能ではないゲームであったのだが、最近はそうでもないらしいね。ち なみにトランプというのは日本独自の通称というヤツで、欧米ではプレイングカードと呼 ぶのが一般的なようだ。さて、いわゆる花札や百人一首カルタというものがこのプレイン グカードの原型が日本に輸入された後に、日本で独自に進化したものだというのは知っ ているかな? カルタという言葉は、ポルトガル語が由来の言葉でね。ポルトガル語では cartaと綴る。これは英語で言うcardに相当する言葉のようだね。プレイングカードの起源 は中国であるという説が最近は有力であるようだから、カルタは世界をほぼ一周してきた というわけだね。原作を元にした二次創作が独自の進化を遂げ、別種の物になるという点 は、このスレッドにおける僕や藤原を想起させるね。20スレ、つまり約2万レスを消費して、 僕はキミたちの中に独自のイメージを持つ存在になれたようだね。原作『涼宮ハルヒの分裂』 でちょっと出ただけの僕というキャラクターにそれだけの思い入れをしてもらえる。キャラク ター小説のキャラクターとして冥利に尽きるというところだね。うん、まぁそれでね。何が言 いたいかというと、その、なんだね。 ありがとう、これからもよろしく。 なんのことはない、この一言を導くために僕はこれだけの量の発言をしているというわけさ。 まぁ、これも僕のキャラクターと言える物なのだろう。それじゃあ、また、次のスレッドで」 そう言って、佐々木は薄く笑みの形に唇を曲げた。 今日の佐々木さんは、少し照れているようです。
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文字サイズ小でうまく表示されると思います 涼宮ハルヒの誰時 「ご、ごめんね?」 手を振り払ったのは俺なのに、何故か慌てて謝ったのは朝倉の方だった。 「こんな大変な時なのに、変な事言ってごめんなさい」 そう言って立ち上がった朝倉は、そのまま逃げるように隣の部屋へいってしまった。 見間違いでなければ、朝倉の顔は真っ赤だった様な気がするんだが……まあ気のせいだろう。なんだか一気に疲れた気がする、というよりも疲れてるのに 無理やり動いてただけなんだろうな、実際。このままここに居たら、本当に泊めてもらう事になりかねん。 朝倉。 呼びかけてみるが返事はない、だがそんなに広い部屋でもないんだから聞こえていないって事はないはずだ。 今日は帰る、また話を聞かせてくれ。 俺はしばらく待ったが朝倉からの返事はなかった。 なんなんだろうな? これは。 でもまあ朝倉は聞いているんだろうなと思い、俺はそのまま部屋を出て行った。 朝帰り、ではないが深夜の帰宅に何故か起きていた母親にきっちりと叱られ、翌日起きたのは頑張ればぎりぎり間に合いそうもない……まあどう考えても 遅刻する時間だったのはこの際どうでもいいね。 家を出て早々に1時間目を諦めた俺は、休み時間に学校に着くようにわざと遠回りをして歩いていた。これで2時間目にも間に合わなかったら洒落にも ならないのだが、ぶっちゃけどうでもいい。なんて、言えればいいのにな。 ハルヒが居なくても、SOS団が存在しなくても現実って奴は知ったこっちゃないらしく、時計の針は一定の間隔でしか進まないし明けない夜も無いらしい。 過ぎていく時間が憎いのに、それに対抗する手段なんぞ持ち合わせちゃいない俺は……そうだな、どうすればいいのか知ってる奴が居たら教えてくれ。 遠回りするはずだった足はいつの間にか見慣れた坂道に進んでいるし、だからといって俺も方向転換する事も無い。遠くに見えていた学校は少しずつだが 大きくなっていって、俺は小さくため息をついた。 正直に言おう、大きく息を吸うだけの元気もなかったのさ。 ふと振り向いた先には誰の姿も無く、俺は諦めたように校舎の中へ入っていった。 「おいキョン! 今日ばかりはお前の不運を嘆いてやるぜ」 図書室で時間を潰した俺が休み時間を狙って教室に入った所を、無駄にテンションが高い谷口が迫ってきた。ああ、テンションが高いのはいつもだったっけな。 ええい、暑っ苦しい。と突っぱねるだけの元気も出てこない。 ああ、そうかい。お気づかいありがとうよ。 そう言って俺は自分の席へと向かうのだが、どうあっても谷口は俺にかまいたいらしい。俺の進む道をわざわざ両手を広げて遮ってやがる。 「おいおい、ちょっと待てって? お前どこに座るつもりだ?」 自分の席だ。 それ以外にどこがあるってんだ?床か? 「お前の席はそこじゃないだろ。間違って座るとクラスの男子、全員から袋にされるだろうから親切で言ってやってるんだぜ?」 お前は何を言ってるんだ?俺の席は窓際の列で一番後ろだろう。 俺の返答に谷口はにやにやと笑いながら指を振っている。 いったい何が言いたいんだお前は? 「キョーン、そこはもうお前の席じゃないんだ。よく見ろ?お前の席はその一つ前だぞ」 なんだって? 確かに言われてみれば、一番後ろの席は俺の記憶の中の机より若干新しい様な気がする。 違う、そうじゃない。俺の席の後ろにあったはずの空間に、机が一つ増えてるんだ。 「いいかよーく聞け。今朝このクラスに転校生がきたんだよ。しかもだ、驚くなよ~?そいつはな、お前も知って 朝倉だろ。 長くなりそうだったので途中で割り込んでやった。 「はぁ?なんだよ、知ってたのか」 急に白けた顔で谷口が軽く両手をあげてみせる。 ここまでくれば分からないはずもないさ、昨日転校してくるって聞かされたばかりだしな。 「あ、おはようキョン君」 背後から聞こえた声に、俺はのんびりと振り向いた。 ああ、やっぱり朝倉なのか。 隠すまでもない小さなため息がこぼれる。実は少しだけ転校してきたのはハルヒじゃないのかと俺は期待していた、でもハルヒならこんなに谷口が騒ぐ事も ないんだとわかってもいた。 人当たりのいい笑顔を浮かべた朝倉は、まっすぐに俺の元へと歩いてくる。 ってそうか、俺が居たら席に座れないんだな。 谷口を押しのけて自分の席についた俺だが、何故か俺の視界には朝倉が入ったままだった。 「今朝は心配しちゃった。もしかして、学校に来てくれないのかと思っちゃったじゃない」 俺の机の横にしゃがんだ朝倉は、俺のネクタイ辺りを見つめている。 どうしてそう思うんだ? 「そりゃあ昨日は肉体労働させちゃったし、もしかしたら私と顔を合わせずらいのかなって思って」 「おいキョン! お前いったい朝倉さんに何をしたんだ?」 テンションの上下が激しい奴だな、血管に負担がかかるぞ。 昨日、朝倉の引越しの手伝いを頼まれたんだよ。ただそれだけだ。 ある意味間違っていないな、昨日は朝倉の荷物運びで殆ど終ってハルヒ達の手がかりは結局見つからなかったんだから。 「なんだよキョン、そーゆー時は俺を呼んでくれって! 朝倉さん、今後何か御用があれば是非俺に任せてください!」 次からはそうさせてもらう。 正直、こっちは馴れない力仕事に体中筋肉痛なんだ。 「ありがとう。よろしくね」 その言葉だけで満足だったのだろう、谷口はふわふわとした足取りで去って行った。 「あまり話した事はなかったんだけど、谷口君って面白い人ね」 そういえば、朝倉がクラスの男子に話しかけているのは見たことがなかったな。 あーゆーのが好みなのか。 「私の好みが気になるの?」 いや、聞いてみただけだ。 でもまあ、朝倉だったら谷口を大人しくさせる事もできるのかもしれない。 「私のタイプは落ち着いてて優しい人よ。谷口君はいい人だと思うけどちょっと違うかな」 俺の視線の先で、国木田相手に騒いでいる谷口に哀悼の意を表してやろう。残念だったな谷口、朝倉はお前とはかなり違うタイプをお好みだそうだ。 どちらかと言えば国木田みたいな奴がいいらしいぞ。 「ねえ、やっぱり私は貴方の事キョン君って呼んじゃだめかな」 さっきも呼んでなかったか?と、言いかけて俺は口を閉ざす。 何故なら朝倉はいつもの笑顔で頼みこむ様な雰囲気ではなく、真剣な顔で俺を見ていたからだ。 いやに呼び方にこだわるんだな。 とも言いにくい雰囲気の中、授業を始めるチャイムが鳴りだす。その音に救われる様に俺は席を正して教科書を取り出したのだが、朝倉はどうやら返事を 聞くまで動かないつもりの様で席に戻ろうとしない。 チャイムが終わりそうになった所で俺は負けた。 好きにしろよ。 笑顔になってようやく自分の席に戻る朝倉。 そして授業が始まり、遅刻してきた俺は教師の教科書を頭部で受け止める事となった。 すんません。 さて、学校はこれでもかと言うほどに何事もなく至って平和そのものだった。 そりゃあそうだ、人間台風とでも評すればいいようなあのハルヒが居ないんだからな。 長門の世界の時と違って、古泉のクラスは残っていたがあの営業スマイルは見つけられない。 一応クラスの名簿も見せてもらったのだが、やはりというかそこにあいつの名前は見つけられない。鶴屋さんはただの上級生という事になっているのか、 廊下ですれ違った時もなんの反応もなかった。あいかわらず妙に元気な人だったのが、救いだった気がする。 もしかして、クラスが違っているだけで実は学校のどこかに居るのでは? そう考えた俺は、部活の関係で生徒名簿が見たいという俺の適当な言い訳で岡部を説得してみた所、びっくりするほどあっさり閲覧を許可された。いいのか? 俺が知っている名前がないか調べている最中、何か後ろで「お前もいよいよハンドボール」とか言ってた気がするが、まあ気のせいだろう。朝比奈さんも 長門も古泉もこの学校には存在しない、それが確認できた時にはすでに夕方になっていた。 さて、今日はどうしようか? ここ最近まともに寝てないんだし、今日くらいはこのまま家に帰るのもいいかもしれん。 「あ、こんな所に居た」 職員室から出てきた所で、朝倉がやってきた。 もう放課後と言うのもどうかと思う時間だぞ?何してるんだ。 すでに日は落ちていて、安普請な廊下は冷え切っている。朝倉は学校指定のカーディガンを羽織っているが、それでも寒そうだった。つまり俺も寒い。 「キョン君には言われたくないな」 不機嫌そうな朝倉の意見は最もだ。 で、なんでお前は学校に残ってたんだ? これだけ暗くなっているのに一人帰すのもどうかと思って――というか朝倉ははじめからそうするつもりだったらしく――俺達は一緒に下校している。 「キョン君を部室で待ってたの。で、あまりにも遅いからもう帰ろうと思ったら靴箱にまだ靴があったから探してたのよ」 それは、なんていうかすまん。 俺が文芸部に行かなかったのは、無人の部室を見るだけの気力がなかったからだった。正直、しばらくは行ける気がしないぜ。 「ねえ。調子悪そうに見えるけど大丈夫?」 左後ろから覗き込んでくる朝倉の顔は本当に心配そうで、俺は適当な言い訳も思いつかなかったのもあって大人しく頷いた。 ここ何日かハードだったからな、今日はもう早く寝る事にするよ。 「無理しないでね?私に出来ることがあったら手伝うから」 それはハルヒ関係の事を言ってるんだろう、しかし今の朝倉に手伝ってもらいたい事か。 俺が想像する手助けってのは、いわゆる超常的な力でみんなを取り戻すって事だったんだが、ただの人間になった朝倉にはそんな事を頼める訳もない。でも、 だからと言って今回の事に朝倉に責任がない事くらいわかってる。なんせ日本にすら居なかったんだもんな。だから俺は何も言わないままでいた。 「ごめんね」 え? いつの間にか止まっていたのだろう、朝倉の声はやけに後ろから聞こえてきた。振り向いてみれば、少し後ろで辛そうな顔で立っている朝倉が見える。 「私がもっと早く帰ってきてたら、もしかしたら事態は変わってたかもしれないのに。手助けするなんて言っても、ただの人間じゃ力になんてなれないよね」 何言ってるんだか――一度は長門に消されてしまったお前が、自分の危険も顧みずわざわざここまで来てくれただけで感謝してるよ――溜息一つついてから、 俺は坂道を戻って行った。 目の前に来ても、朝倉は動かないでいる。俺は俯いたまま固まっている朝倉の頭に手を乗せ、そっと撫でてやった。 朝倉、お前には助けられてるよ。事情を知ってる人が誰一人居なくて相談もできない状況に、正直ギブアップ寸前だったんだ。 「キョン君」 でも、ハルヒに関わる事で相談されるのが迷惑なら言ってくれ、お前にまで迷惑をかけられないからな。 お前にとっては、忘れたい事なのかもしれないし。 「迷惑だなんて思わないで。それに、私だって自分の事を知ってる人が残っててくれて……嬉しかったんだよ?」 潤んだ目で見つめる、掛け値なしの笑顔がそこにあった。 その時、俺が感じたのは仲間ができたという安心感だったのか、それ以外の感情だったのか。 自分ではわからなかった。 「ここがそうなのね」 ああ。 次の休日、俺と朝倉はあの市立図書館へ来ていた。 学校の中は平日の間に殆ど調べて終えてしまっている、いよいよもって手詰まり感は否めない。だが長門と一緒に来たこの図書館なら、もしかして何か 手掛かりが残っているのではないか? そう考えたのだが、静かなはずの図書館は人気は少ないものの何故か騒がしかった。 「ごめん、もっと地味な格好がよかったね」 気にするなって。図書館だって言わなかった俺が悪いんだ。 朝倉には先日、次の休みに市立図書館に行くんだが一緒にくるか?と聞いたのだが、どうやら朝倉はそれをデートだととったらしい。今日の朝倉は 図書館には不釣り合いな派手目の服装で――それは似合っていると俺は思うんだが――やはり人目を引いてしまっていた。そそくさと建物の奥へと進み、 長門が足に根が生えるほど読書に勤しんでいた本棚の付近へと移動する。 流石長門だな、目的の場所の周りにはまるで人気がない。 並べられた本のどれもが数回、下手をすれば一度も開かれていないのではないかと思うような場所で……。 「どこから探そうか?」 そうだな、どうしような。 ある意味まっ平らな壁を相手にしているような気分だ、どこから手をつければいいのか全くわからない。 それでもせっかく来たのだからと、俺達は手当たり次第に分厚い本を机に移動しては中身をさっと確認するという作業に取りかかった。 運ぶのは俺で、調べるのは朝倉。適材適所って奴だよな。 「これだけあると全部は調べられないから、今回はキョン君の感で選んでみて」 なるほど、確かにその方がまだ可能性がある気がする。 俺はさっそく、目の前にあった分厚く引き抜くのも苦労する様な本を一冊取り出した。確かこれは長門が読んでいた本だと思ったんだが……おい、 2キロはあるだろこれ。しかも12巻まであるのかい、そうかい。 そうして数時間が過ぎても、俺の手が挙がるのを拒否しだした以外にはやはりというかなんの進展もなかった。 朝倉も時々目元を押さえたりしている、休憩しながらだがお互い限界みたいだな。長門がこの図書館に来たのはずいぶん前の事だろうし、その時すでに ヒントや仕込みを終えているってのも無理があったと今更ながら思う。気づくのが遅すぎたとも思う。 こんな所で悪いな。 「え、何が?」 休日にこれだけ付き合わせておいて、ファミレスじゃ合わないだろ。 とは言っても俺の小遣いじゃここが限度だったりもするんだけどな。図書館での探索を諦めた俺達は、SOS団で集まる時に使っていたファミレスへきていた。 すでに夕方を過ぎていて、店内は大勢の客で賑わっている。 「気にしないでよ。それに、ここは割り勘でいいよ」 それは助かるが、そうもいかないさ。 いくら俺でもあの重労働に対価無しってのはあんまりだと思うぜ。 「どうして? レディーファーストとかかな?」 そんな概念は、古泉でもなければ似合わない。 俺が言っても寒がられるだけだ。 「私は好きでキョン君に付き合ってきたんだから、そんなに気を使わないでいいよ」 言いきる口調からして、どうやら朝倉は譲る気はないようだ。 ハルヒによる罰金刑対策で財布の中身に多少は余裕があったんだが、ここは大人しく好意に甘えておくとしよう。 翌週、今更なのだがテストが返ってきた。 そういえばそんな事もあったんだな、っていうかそれも無かった事になってればいいのによ。などと脳内で不満を言っている間にも、教室の中は少しの歓声と 明らかにそれよりも多くの悲鳴で溢れかえっていった。 さて、俺の結果なのだが。 予想よりは高いようで平均には到底及ばないこの成績に対し、俺は我ながらどう取ればいいのかわからない溜息をついた。 「キョンはどうだった?」 さっそく戻ってきた答案を片手に国木田がやってきた、後ろを見れば谷口も居るがどうやら今回は深刻に酷い内容だったらしく燃え尽きた顔をしている。 どうもこうもない。 隠しても仕方ないので俺は国木田に答案を渡してやった。 「う~ん。キョンは文系は多少いいけど、全体的にかなり弱いみたいだね」 完璧な戦力外通知をありがとうよ。 とはいえ、勉強も本気でなんとかしないとまずいって事だけはわかってるんだがな。お前はどうだったんだ?なんて聞くまでもない。国木田は俺や 谷口なんかと付き合ってはいるが、明らかに進学組だったりするんだ。 「私も見ていいかな?」 聞きながら早くも、国木田から答案用紙を受け取った朝倉がこちらを見ている。国木田も俺が答える前に渡すなよ。 好きにしてくれ。 俺の返事を聞いて、さっそく答案に目を落とした朝倉の顔から一瞬笑顔が消えたのを、俺は見逃せなかった。 こんちくしょー。 「ねえ、今日は一緒に文芸部の部室でお昼食べない?」 昼休みを間近に控えた授業中、後ろから朝倉のそんな声が聞こえてきた。 別に断る理由もない。 俺は前を見たまま肯いておいた。 都合よくチャイムが鳴り、購買へ向かう生徒や弁当を広げたりと一気に騒がしくなる教室を朝倉は一人通り抜けて行く。このままここに居ると谷口あたりに 捕まりそうだな。普段ならそれもいいが、まさか朝倉と先約があるとは言えないし他に誘いを断る理由が見つかりそうもない。俺は弁当を取り出すと、教室を 出てのんびりと部室棟へ足を向けた。 が。 「キョン?」 口にコロッケバーガーを入れたまま、器用に谷口が俺の名前を呼んでみせる。谷口だけではない。意外な事に、文芸部に居たのは朝倉と谷口と国木田の三人 だった。驚いた二人の顔と、俺にしか見えないように小さく舌を出して謝る朝倉の顔。 おいおい、どうなってるんだ? 「で、何でお前がここに来たんだ?」 弁当を広げた俺に対して、谷口は穏やかな表情の下に確かな敵意をもって問い詰めてくる。 国木田はそもそもどうでもいいらしく、もそもそとサラダを口に運んでいるし、朝倉も何食わぬ顔で弁当の中身をちまちまと食べていた。 まあ、そのなんだ。 何故この辺鄙な文芸部で、しかも朝倉と、さらに隠れるようにして弁当を食べようとしていたのか。正直俺にもよくわかってないんだが、どうやらここで 朝倉に振るという選択肢は無いらしい。 「俺達は中庭で弁当広げてた時に偶然朝倉さんが通りかかったから、せっかくだからとご一緒してる所だ。言っておくがキョン、返答しだいではクラスの男子 全員を敵に回す事になるからな?」 安心しろ、それはない。 適当な言い訳を考えてみた所、今日はちょうどいいネタがあった事を思い出した。やっぱりちゃんと睡眠は取るべきだな。 俺は弁当の包みを開きながら、かなり本気で睨んでいる谷口に言い訳を披露した。 今朝のテストの結果が悪かったから、朝倉に勉強を教えてもらう事になってたんだよ。で、だ。俺のレベルを周りの奴らに知られると 恥ずかしいだろうからって朝倉がここならどうかって提案してくれたのさ。 「お前が勉強だと?勉強道具も持たないでか?」 ええい、いい所を突くじゃないか。 ヒアリングが全滅だったから英語の勉強だったんだよ。昼休みに教科書なんて読んでたら気が滅入るだろ?それに朝倉は外国暮らしの経験があるから 下手な教師より勉強になると思ってな。 む、これはちょっと苦しかったかもしれない。 嘘つけ。と言われそうな気もしたんだが、どうやら今回のテストに関しては流石の谷口も思い当たる所があったんだろう。 めずらしく真面目な顔になって、口を閉ざしちまいやがった。 「私に教えられる事はそんなに無いと思うけど、どうせなら二人で勉強した方がいいかなって思って」 朝倉の助け舟で一応は納得したのか、谷口は大人しくコロッケバーガーの処理に戻っていく。やれやれだ。 「朝倉さんは今回の結果良かったの?」 「私は転入が間に合わなかったから、今回のテストは受けてないの」 「あ、そうだったね。今回の問題は殆ど期末の範囲とだぶってたんだけど、少し変わった所からの出題があってさ……」 とはいえ元々成績上位の朝倉だけあって、国木田とのテストの難問についての会話に俺は参加資格すら無い事だけはわかった。 谷口も同じらしい、もそもそとつまらなそうな顔で二つ目のパンに手を出している。 やれやれ、俺は何しにここへ来たんだろうな? 優等生同士の会話を綺麗に聞き流しながら、弁当を胃に押し込む作業は緩慢と進んで昼休みももう残り少なくなった頃。 「ねえキョン。そうしなよ」 突然国木田に名前を呼ばれた時、俺が見たのは朝倉と国木田の妙な笑顔だった。 「無理にとは言わないけど、手助けくらいならしてあげられると思うの」 まて、聞いてなかった。何の話なんだ? 手伝いって何の事だ? 「だからさ、朝倉さんが勉強を見てくれるって言うなら今日だけじゃなく、何日か続けて教えて貰った方がキョンの為になると思うんだ」 なるほど、勘弁してくれ。 しかし、国木田の口調からして善意から言ってくれてるらしく断りにくい空気だ。 朝倉の笑顔にも「どうしよっか?」と聞きたげな感じが混ざっている。まあいい、今だけうんと言っておけばいい話だろ?二人で勉強するだけなら、朝倉が 口裏合わせさえしてくれれば問題ないだろうし。 わかったよ。朝倉、すまないがよろしく頼む。 俺は多少芝居がかって軽く頭を下げて見せた。 「任せて?じゃあ谷口君も早速今日の放課後からでいい?」 「はい!」 え、なんだって?なんでここで谷口が返事してるんだ? よく見ればレベルの違いに落ち込んでいたはずの谷口も、いつのまにか無駄に――本当に無駄だ――スマイル全開になってやがる。 「頑張ろうね。キョンはやればできるようになると思うんだ」 おい国木田、なんでそんなに自信ありげに頷いてるんだよ。しかもお前まで来るのか? えー、俺の知らない所でどうやら何かが決まったようだ。 元気になっている谷口、終始笑顔の国木田。そして僅かに困り顔の朝倉と……俺はどんな顔をしてたんだろうな。 つまりは、これからしばらくの間4人であの部室に集まって勉強会をする事になったってことか。 「うん。……どうしようね?」 結局、言い訳に使った英語の勉強などする時間もなく昼休みは終わり、俺達は教室に戻って来ていた。 国木田の事だ、面倒くさがりの俺は明日からにすしたら来ないってわかってて今日からにしたんだろう。今更断るのもどうかと思うし、仕方ない。腹を くくろう。 今日はとりあえず俺も顔を出すけど、何日かしたら俺は抜ける事にするさ。 正直、今は勉強するって感じじゃない。 何故だろう、俺の返事を聞いた朝倉はどこか寂しそうな顔をしている。 「……私は、どうしたらいいかな」 どうしたらって、そりゃあ。 返事に迷った俺を救うかのようにチャイムが鳴り、俺は仕方なさそうに前を向いた。視界の中で、最後まで寂しそうな顔をしていた朝倉の事が気になって というかまあいつも通りに、教師の言葉はまるで頭に入ってくることはなかったよ。 「今日はとりあえず二人の現状を確認しようと思うんだ。はい、これ」 不思議なほど笑顔の国木田に渡されたのは、ノート一面に手書きで書かれたテスト用紙だった。ちなみに1枚じゃないぞ? A4のノート両面の問題が なんと3枚もだ。 おい国木田、こんなもんいつの間に準備したんだ? 「5時間目の授業中に書いてさっきコピーしてきたんだよ。内容は北高校の受験内容と同じレベルだから安心して」 さらりと言い切る国木田はどうやら本気らしい。ちなみに隣に座る谷口は「こんなに難しかったか?」と呟きながら早くも苦い顔になっている。 「じゃあ時間は30分、終わったらすぐに採点するから帰らないでね。はじめ!」 不平不満が出る前にさっさと開始する訳か、岡部なんかよりよっぽど手馴れたもんだ。国木田、お前教師になったらいいと思うぞ。 という訳で、俺は今答案用紙相手に久しぶりに本気で取り組んでいる。流石に受験レベルとなれば、そこそこの点数が取れないと学校に来ている意味が 問われるもんな。 朝倉と国木田は、必死な俺と谷口の様子を真面目な顔で見ている。 何見てるんだ、なんて言うだけの余裕もないまま時間は過ぎていき――。 「はい終わり、すぐに採点するから待ってて」 答案用紙は国木田の手に渡って行った。 やれやれ、こんなに真面目にテストに取り組んだのはいつ以来だろうな? 「キョン、お前どうだった」 力無い口調で谷口が聞いてくる、聞くまでもないだろう。良い訳がない。 なんせSOS団に入ってからというもの、家でまともに勉強した事なんてなかった俺だ。結果が良かったらむしろおかしい。しかし谷口は俺以上に答案を 埋められなかったのか――唸り声ばっかりで殆ど書いてる音がしてなかったもんな――すでに燃え尽きた表情をしていた。 「ここはおしかったよね」 「うん。基本はできてるんだから応用部分さえ押さえればすぐに理解できるはずね」 「数学は思ってたより厳しい結果だけど、これはどうしようか」 「そうね……。この公式の段階で間違ってるんだから、そこから覚えなおすとしたらちょっと大変かも」 どっちのテストについて話してるんだ?と聞くのは正直怖かった。 学年や、クラスの中で自分の順位が良いとか悪いなんて事は正直どうでもいいが、同じレベルだと思ってた谷口と比べられると正直きついぞ。 嫌に長く感じられた採点時間だったが、時計を見てみればまだ10分も経っていない。 「じゃあ答案を返すね、間違ってた所は解説を入れておいたから必ずやり直してみて。わからなかったら僕か朝倉さんに聞いていいから」 俺の元に帰って来た答案は……やれやれ、想像以上だ。 もちろん、悪い方にな。 「明日までに二人の苦手分野の問題集をまた作ってくるよ。二人ともちゃんと来てね?」 「なあキョン。お前、朝倉さんとどうなんだよ」 帰り道、優等生二人の後ろを歩いていた俺に谷口は疲れた顔で聞いてきたんだが。 どうって、何がだ。 今のところ、生命の危機には瀕してないぞ。 「そりゃあ……まあキョンだし、気にしなくてもいいか。俺的美的ランキングAAランク+の朝倉さんが、お前でなんとかなる訳がないもんな」 そうかい。 しかしまあ、美的ランキングなんてずいぶん懐かしい事を言うじゃないか――思わず色々思い出しちまったよ。 的外れな事を言ってる谷口はいいとして、朝倉はと言えば国木田と何やら難しそうな話題で盛り上がっているみたいだ。 「ここだけの話国木田の奴はさ、なんだか知らねえけどお前の成績の事結構気にしてたんだぜ?」 国木田が?なんで? 教師どころか本人も気にしてなかったってのに。親は気にしていたが。 「知るかよそんな事。ともかく俺はこの機会に一気に成績上位を目指させてもらうぜ?もちろんそれ以上の事も狙ってる。何せあの朝倉さんと 二人っきりで勉強できるチャンスなんてこの先二度とないだろうからな」 どうでもいいが、お前の視界には俺と国木田入ってないようだな。 まあいいか。何はともあれお互い赤点ぎりぎりの生活にはそろそろ終止符を打つべきなんだろうし、この機会を逃せばそれこそ卒業も危うい気がする。 出来るなら可能な限り先延ばしにしたい事だけど、学生ならいつかはこうなる運命だもんな。 先の事を考えるにはまだ早い気もするが、少しは真面目に取り組んでみようじゃないか。 「おはよう」 翌朝、何故か寂しそうな顔で朝倉が登校してきたのは珍しい事にHRぎりぎりの時間だった。声に力がないし何か顔色も良くない気がする。もしかして、 何かあったんだろうか? お前がこんな遅刻寸前だなんて珍しいじゃないか。何かあったのか? 「あ、ちょっとその寝坊しちゃって……ねえキョン君」 ん? 「その、今日の勉強会の事なんだけど。キョン君は……もう」 ああ、そうだった。朝倉。 俺は机の中にしまっておいた昨日の答案用紙を取り出した。こいつのおかげで昨日は貴重な睡眠時間がごっそり削られちまったよ。 家に帰ってやり直してみたんだが、どうしても問3がわからないんだけど教えてくれないか? 「え! あ、うん。まかせて!」 と、急に元気になった朝倉だったのだが。教師が入ってきてHRが始まった事により朝倉の講義は一時中断となった。しかしさっきまで元気がないみたい だったのに、女ってのは急に変わるもんだな。まるで谷口みたいだぜ。 「朝倉さん、ちょっとこれ見てみてくれるかな。キョンと谷口に作ってきた問題集なんだけど」 昼休み、部室に集まった俺達の話題はやはり勉強会についてだった。俺にとってはなんとも消化に悪い話なんだが、好意でやってくれている事に 文句を付けるわけにもいかず黙々とおかずを口に運んで行く。 「凄いね。こんな事言ったら怒られるかもしれないけど、北高の先生が作ってる問題よりよくできてると思うよ?」 国木田作の問題集を片手に驚く朝倉だが、よくできてるってのは簡単って事かい? そんな訳ないだろうけどな。 「ちょっと問題数が少ない気もするけど、とりあえずは基礎的な所で苦手意識を持たないようにするにはこの方がいいと思って。朝倉さんはどう思う?」 「私も楽しく勉強するにはその方がいいと思う。あと、国木田君って字が綺麗よね」 「そうかな?」 おやおや、意外な所でいい感じに見えるんだが? 面倒だから隣の谷口が妙に震えてるのは放っておいてもいいよな。 「じゃあとりあえず僕はキョンを担当するね、朝倉さんは谷口をお願いしていいかな」 「うん。谷口君、一緒に頑張ろうね」 「はい! よろしくお願いします!」 さっきまで唸ってたと思えば急にこれか。まったく、切り替えが早すぎてついていけねえよ。 そして放課後、無人の文芸部において二度目の勉強会が開催された。 朝倉の指導もあってか今日の谷口はいつもよりは真面目に見えるし、俺は俺で国木田の解説を聞いている間に意味不明でしかなかった問題集が、なんとなく 理解できるような気がしなくもない程度には上達してきた気がしなくもないね。 静かな部室の中で、筆記具による音だけが絶え間なく続く。国木田の教え方がいいのか、こんなに勉強に集中できた事はないって程に俺は問題集に取り組んでいた。 ようやく問題集の終りが見えてきた頃、俺はふと顔をあげて入口のドアへ視線を向ける。 放課後なのにこの部室には今日も誰もやって来る気配がない。長門が居なくなってしまった事で、本当に廃部になってしまったのかも知れないな。 「キョン、どうかしたの?わからなくなっちゃった?」 ん、ああ。今更だけどこの部室を勝手に使っててよかったのかって思ってな。 「そういえばそうだね。文芸部って廃部になってるのかな?」 俺達は勝手に使っているこの部屋だが、本来で言えば部室棟の部屋は鍵がかかっているはずだった。 しかし何も資材らしきものすらないせいか、この部屋は一度も鍵がかかっていた事がない。 「なんだったら、隣の部室の人に聞いてみればいいんじゃない?」 「あ、君は!」 どうも。 コンピ研の部室に入った途端、部員達の視線が一斉に集まってきたのを俺はむず痒く感じていた。背後から感じる3人の視線も、今は何故か居心地が悪い。 「ジョ……っと、今日は一人じゃないみたいだね。何か用なのかい?」 部長氏は思ったより常識がある人の様だな。いきなりジョン・スミスとか呼ばれたらどうしようかと思ったぜ。 えっと、隣の部室について何か知ってませんか? 俺が指さす壁の方を見て、部長氏は頷く。 「ああ文芸部か。去年までは少しは交流もあったんだが、今年は入部者0だったせいで残念だけど廃部になったと聞いてるよ」 長門は居なかった事になってるんだもんな。 となれば、とりあえずはあの部室を占領していても問題はない訳だ。 「もし部活を探しているのなら是非、我がコンピ研に来てくれ。君なら歓迎させてもらうよ。ああ、なんならお友達も一緒に来ればいい」 そう言って、廊下から入ってこようとしない残りの3人に部長氏は視線を向けた。 考えてみます。 我ながら適当な返答を残して俺はコンピ研を後にし、廊下からの三者三様の視線を全て無視しつつ文芸部へと急いだ。 「キョン。お前パソコン詳しかったのか?俺んちのノーパソ最近なんか動作が重い気がするんだけど見てくれよ」 知らん。頼られる程俺は詳しくないから、店に持ち込むか買い替えろ。 それにあえてここでは言わないでおいてやるが、おそらく原因は人に見せられないデータが多すぎるせいだ。断言してもいい。 「何言ってんだ?そんな金があったらお前に頼まないって」 そりゃあそうだろうな。 「コンピ研の部長さんにあそこまで勧誘されるなんて凄いと思うよ。キョンはそっち方向の大学に進むつもりなの?」 さあどうだろうな、ただの買被りだと思うぜ。 ちょうど区切りまで問題集は終わっていた事もあり、今日は解散となった。 その日の夜、夕食を食べて自分の部屋に戻ろうとしていた時に俺は何か視線の様なものを感じて振り向いた。 しかし、そこには誰も居ない――今のはなんだったんだ? 薄気味悪いとかそんな感じじゃない、何か懐かしいとうか不思議な感覚だった気がする。 それがきっかけになったのだろうか?部屋に戻った俺は思いついた事があって、急いで朝倉にメールを入れた。 もしかしたら、ハルヒ達を取り戻せるかもしれない。 久しぶりに鼓動が速くなるのを感じながら、俺は朝倉の返事を待たずに家を飛び出していた。 「ごめん、待たせちゃったね」 いや、こっちこそこんな時間に急に呼び出して悪かった。何か食べたかったら頼んでくるぞ。 「ううん大丈夫。それで、思いついた事ってなあに?」 メールをして30分後、俺と朝倉は駅前のファストフードで落ち合っていた。明日は平日だ、あまり遅くまで付き合わせる訳にはいかない。 ここじゃ試せないんだ。すぐ近くだからついてきてくれ。 そう言って俺が向かったのは、漫画喫茶だった。 「ふ~ん、はじめて来たけど思ったより綺麗な所なんだね」 楽しそうな顔で、朝倉は店内を見回している。受付を済ませた俺はさっそく指定された個室の中へと向かう、狭い室内には目的の物。パソコンがあった。 頼むぞ、これが何かの手がかりになってくれ? 俺はかなりの期待をもって、あのページを検索していった。そして数分後、目的のサイトへと辿り着く。 朝倉、こいつを見てくれないか? 「これって」 朝倉の顔に驚きが浮かぶ。 モニターにはあのSOS団の公式サイトが表示されていた。画面中央やや上に堂々と浮かぶハルヒ作、長門改編によるZOZ団のロゴと無駄に進んだ アクセスカウンター、後はメールアドレスがついているだけの我ながら完璧なまでに読者無視を貫いたサイトさ。 俺にとって、ハルヒが居たって物理的な痕跡と言えばこれ以外に思いつかない。一人でハルヒを探していた時に見つけた時は何も起こらなかったが、 朝倉だったら何か違った答えを出してくれる事を、俺は期待していた。 これは俺がハルヒに作らされたものなんだが、何かハルヒ達を取り戻す手がかりにならないか? 俺の言葉も耳に入らないほど真剣な顔で、朝倉はモニターを見つめている。 ペアシートの奥に座っている俺は結果的に朝倉に押し倒されているような形になって苦しかった――だけでなく、なんというか色々当たってた――のだが、 抗議するタイミングをどうにも掴めないまま時間は過ぎていった。 数分後、小さくため息をついて朝倉はモニターから離れていった。 その表情からだいたい想像はできたが、聞かない訳にはいかないよな。 手がかりはない、か。 むしろ俺より気落ちした顔で、朝倉は首を振った。 「ごめんなさい。今の私にはここから何かを見つける事はできないみたい」 所詮俺の思いつきさ、いきなり何か進展があるとか期待してたわけじゃないんだから気にしないでくれ。とまあ、自分に嘘をつきながら俺達は早々と 漫画喫茶を後にした。 結局、最後まで申し訳なさそうな顔をしていた朝倉には悪い事しちまったな。 ハルヒの手がかりを得られなかった事よりも、むしろそっちを気にしながら俺は自宅へと自転車を走らせた。 それからというもの、俺は朝倉にハルヒに関する話題をあまり振らなくなり、するのは専ら勉強会の話題ばかりになっていた。 驚く事に、勢いで始まってしまった勉強会はあれから数週間を過ぎた今も毎日続いている。その結果俺と谷口の学力はどんな魔法でも使ったのか?という 程に向上し、一時的な事かもしれないがクラスの平均近くまで上昇していたりする。 間違いなく教える奴が優秀だったからなんだが、多少は自分を褒めてやってもいいだろうね。 なんとなく理解できるようになると退屈でしかなかった授業もそれなりに面白いものとなり、朝倉が言う教師のレベルとして国木田の方が高いってのが 実感できるようになってきたくらいさ。 小テストもむしろ腕試しとばかりに挑戦できるようになった頃には、驚くなよ?問題集の復習以外にも自宅でたまに教科書を開くようになっていた。 そんな俺を見て妹は面白そうに邪魔しにくるのだが、それを適当にあしらうだけの余裕が今の俺にはある。解ける問題を解くってのは気分がいいせいかもしれないな。 ……いや、そうじゃないんだ。 結局、俺はハルヒ達を取り戻せないまま時間はどんどん過ぎてしまっていて止める事もできないでいる。 仲間を助ける事もできないでいる不甲斐ない自分を認めるのが嫌で、何かの形で自分の価値を作りたくて焦ってたんだと今は思う。勉強だったら一定の 物差しで数字として結果がでるから、自尊心を満たしてやるにはちょうどよかったんだ。 そんな時間を過ごしている間に、俺はいつからかハルヒ達の事を考えるのを止めてしまった。 ふいに思い出す事はあっても、いつかどうにかなるなんて安易な期待と……もうどうにもならないんだという諦め。 ただ目の前にある生活の中で、俺は自然と後者を選んでしまっていた。もう、自分の中で理性を相手に戦う感情は見つからない。探そうともしない。 そんな俺の思いを知っているのか、朝倉もハルヒの事は話題にしなくなっていた。 「それでね?何か目標があった方が頑張れるだろうし、今度の学力テストの結果が良かったら年末に皆でどこか温泉にでも行かない?」 年末も近づいた勉強会の合間、休憩時間に朝倉はそんな事を言い出した。 一応国木田の家に余っていたという電気ストーブはあるのだが、冷え込むって事に関しては他の追従を許さない文芸部の部室だ。暖かい場所に行きたく なるってのは、無理も無い発想だと思う。 温泉ねえ。 と、適当に返事しつつもすら上げずにノートを読んでいた俺とは好対照に、 「賛成です! 是非行きましょう!」 と早くも気合十分な谷口。急に立つな、机が揺れるんだよ。 「2年になれば忙しくなるだろうし、いいかもしれないね」 ん、国木田も乗り気みたいだな。 そして訪れる沈黙。なんだ、何かあったのか? 驚いて顔を上げる俺に谷口の指が伸びている。 「おいキョン。まさかお前行かない、なんて言わないよな?」 まあまて谷口、行かないとは言ってない。お前顔は笑ってるが声が笑ってないぞ。 「じゃあ行くんだな?」 ええい、そんな必死な目で見つめてくるな。ところで朝倉、どこか当てはあるのか? その言葉を待っていたのか、朝倉は鞄から何やら旅行雑誌を取り出した。よっぽど前から調べていたんだろう、注意して見るまでもなくその本には 大量の付箋紙やら書き込みで溢れている。 「うん。ここなんてどうかな?そんなに高い所じゃないから、少しバイトすれば行けると思うんだけど」 そういえば朝倉は、以前話した出所不明の宇宙人の生活費ってのは最低限しか使わなくなっているらしい。 本人曰く、いずれは完全に自立したいとかなんとか言っていた。朝倉らしいといえばそうだよな。 また沈黙。あ、返事を待ってたんだな。ここで、3人で行ってくればいいなんて言うほど俺も孤独が好きな訳じゃないさ――色々思い出してしまいそうだが―― 久しぶりに集団行動ってのも悪くない。 わかった、俺も賛成だ。で、目標点数はどのくらいにするんだ? その後、朝倉の指定した学年平均よりも上を目指すという無難な目標に向けて俺たちの勉強会は続いていった。この目標が無難だと思えるってのは 大した進歩だよな、数ヶ月前では考えられやしないぜ。ちなみに俺と谷口の目標が平均以上なだけであって、国木田と朝倉は上位20位に入る事らしい。 超えられない壁ってのはあるのさ。 冬休みを間近に控えた週末、俺は街に買出しに来ていた。 学力テストも全員が無事に目標達成する事ができ、冬休み中盤に設定された二泊三日の温泉旅行の準備の為さ。街は慌しく歩く人で溢れかえっており、 今が年末なのだとしみじみと感じる。今年は人生で一番色々あった年になるのは間違いない、そしてそれは恐らく一生更新される事のない記録になるんだ という事もな。 ふと視界に入った電気屋の軒先に、特売と書かれたストーブがあるのに気づいた。 型落ちなのか、箱を見る限り新しそうだが手ごろな値段だ。国木田のストーブだけで冬を越すのも大変だろうしみんなに相談してみるかな。店員にできれば 数日取り置いてもらおうと顔を上げた時、俺はこの店が例の映画のスポンサーになってくれた大森電気店だという事に気づいた。 って事はもしかして? やぶれてしまわないようにそっとストーブの入った箱を開けてみると――やっぱりだ――そこにはあの日文芸部から消えてしまったあのストーブがあった。 「何かお探しですか?」 人当たりのいい眼鏡をかけた店員さんが声をかけてきた。ああ、なんだあの時の店長さんじゃないか。 しかしながら向こうは俺のことを覚えてはいないようで、俺に向けられる視線は突然商品の箱を開きだした不審な学生に向けるそれでしかない。 これって、どうしてこんな値段なんですか? なんだ?俺の言葉に店長さんの顔が急に不思議そうな表情に変わる。 「実は在庫整理をしていた時に偶然見つかったもので、帳簿では処分済みになっていたんですよ。何かの手違いだとは思うんですが、これから入荷も多いので こんな値段で売りに出している訳です。ですが点検も済んでますし、故障品だとか中古だとかそういった理由で安いんじゃないんですよ」 なるほどね。ハルヒが俺に言ったでまかせの理由が、まさかこんな形で本当になってるとはな。 俺は少し迷った後、財布を取り出して中身を確認した。 寒々とした冬空の下、誰も居ない坂道をのんびりと登っていく。 手に持ったストーブの箱といいこの状況といい、まるであの日みたいだな。ああ、あの日はさらに雨も降ってたんだっけ?思い出されるのはつい先月の事の はずなんだが、俺にはそれがずっと昔の事だった気がしていた。 休日の校舎は部活の関係で開放されていたが、肝心の部活をする生徒の姿は殆ど見えない。 まあ、こんな冬空の下で外に出たがる奴なんて北高には……もう谷口ぐらいしか居ないよな。 ストーブを床に置き、ドアノブに手をかけると無人の文芸部は今日も鍵が開いたままだった。扉を少しだけ開けると、無人の部室の中から冷えた空気が漏れ 出してくる。 そのまま扉をあけた先に、当たり前だが長門の姿はなかった。 ――もう、ため息も出なくなっちまったんだな。 今頃あいつらはどこに居るんだろうな。それとも、本当にもうどこにも居ないのかだろうか。どちらにしろ今の俺にできる事ってのは思いつきそうに無い。 そんな現状にせめても抵抗をしてやろうって訳じゃないが、俺はあの時と同じ場所にストーブを置いた。そして電源を入れて、あの時と同じ場所に座る。 窓際には長門の姿は無い、朝比奈さんの衣装も、古泉のゲームも、ハルヒの姿も何もかもがもうここには無い。結果はなんてわかってる、試すまでもない 事だろうよ。 それでも俺はストーブの電源を入れ、静かにパイプ椅子に座って机に突っ伏した。やがて、静かに温まってきた部室の中で目を閉じる。 目が覚めたら全ては俺の夢で、実は何も変わっていなかったってのはどうだい? 静かな部室の中で意識は緩やかに薄くなっていき、俺は抵抗する事無く睡魔に身を任せていった。 目が覚めればきっと、隣にはハルヒが居て俺の背中には二人分のカーディガンがかけられている。下校時間はとっくに過ぎちまってて、おまけに外は雨降り。 ハルヒがどこからか勝手に持ってきた学校の傘を差して二人で下校する。 そう、きっとそうなんだ。 なあ、古泉。もしも俺に願望を実現する力って奴があるならこの願いは叶うかい?俺は叶う方にかける、だからお前は叶わない方にかけろ。俺が負けたら、 また部室でのゲームに付き合ってやるよ。 朝比奈さんと未来の朝比奈さん、貴女達の秘密はまだ全部教えてもらってませんよ?ここで終わりなんていくらなんでも中途半端すぎます。せめて年齢だけでも 教えに来てくれませんか?そのまま居座ってもいいですよ、歓迎します。 長門、お前は今どうしてるんだ?一人は静かでいいとか言うなよ?少しは寂しいとか感じてくれてるよな。お前が居なくて、俺は寂しいんだからさ。 ……ハルヒ、まだお前は俺と会いたくないのか?だから俺達は会えないってのか?まったく、最後まで一方的ってのはいくらなんでもやりすぎだと思うぜ。こっちの気持ちも考え てくれよ――まだ、伝えてない事だらけなんだぜ。 その時俺は、不思議な夢を見た気がした。 季節は冬で場所は駅前、どうやら俺達はまだSOS団として活動しているらしい。 何故かその中には朝倉も居て、もちろん俺も居た。 やれやれ、どうやら夢の中でまで俺はみんなに奢る事になるらしい、苦い顔をして会計をする俺の横をご機嫌で通り過ぎていくハルヒ。 そうさ、みんなが居るこれが俺の日常だったんだ。 だった……んだよな。 いつの間にか目は覚めていて、部室の中は薄暗くなっていた。 目が覚めたってのに何でこんなに視界がぼやけてるんだ?まったく、古いだけあってこの部室は雨漏りでもしてるのかね。 ストーブのおかげで体は暖かいが、背中には何もかかってはおらずハルヒの姿も無い。 俺はストーブの電源を切って、逃げるように部室を出て行った。 「キョン、ずいぶん早いじゃない」 雑誌に夢中になっていた俺の横に、いつのまにか国木田の姿があった。 手には大げさな鞄が二つ、そんなに何を持ってきてるんだ?俺は自分の小さな鞄と見比べて、何か忘れ物がなかったか不安になったが……まあいいか、 足りない物は借りればいい。そろそろ皆来る頃だな、俺は雑誌を棚に戻して自分の荷物を持ち上げた。 さて、じっと待っていた国木田に、早く来ていた理由を教えてやろう。 罰金は嫌だからな。 「え、罰金?そんな約束してたっけ」 いや、こっちの話だ。気にしないでくれ。国木田、重ければ一つ持ってやろうか? 「ありがとう、これ見た目ほど重くないから大丈夫だよ」 そうかい。 温泉旅行当日、駅前のコンビニに俺は最初についていた。 俺が着いたのは集合時間の20分前、これでもあの頃はたまに奢らされてたってんだから理不尽だよな。 「さっき調べてみたら向こうの天気も良いらしいよ。露天風呂からは雪山が見えるんだって、キョンは露天風呂って入った事ある?」 温泉とは名ばかりの公衆浴場になら行った事があるぞ。 ちなみに温泉の元が入ってるだけとしか思えない風呂だった。 「僕もそんな感じ、どんな所なんだろう?楽しみだなー」 お前みたいに何でも素直に喜ぶのが、人生を楽しく生きるコツかもしれないな。 「キョンは楽しみじゃないの?温泉」 国木田は不思議そうな顔で俺を見ている。 ……そうだな、楽しみだ。 ハルヒ達が居なくなってからというもの、俺は自分の楽しみを求める事に罪悪感みたいな物を感じていた。 せめて心苦しくでも思わなければ、助けることもできないでいる自分を許せそうになかったのさ。 それがなんの意味の無い、ただの自己弁護だともわかってる。 「お待たせ、私が最後かな?」 集合時間5分前、白い息を吐きながら朝倉がやってきた。 いや、谷口がまだ来てない。 それにしても遅いな、あいつなら俺より早く来ててもおかしくないんだが……。まさか現地に先に行ってるなんてないだろうな。 「えっ嘘でしょ?だって予防接種……うん」 国木田が携帯に向かって素で突っ込んでいる。相手は谷口のはずだが何かあったんだろうか? 「うわ、それは……うん仕方ないよね。じゃあみんなには伝えておくよ、うん。わかってる、本当に大丈夫?じゃあ、お大事にね」 複雑そうな顔で国木田は携帯を切った。 谷口がどうかしたのか? 「うん。谷口、インフルエンザにかかったみたい。しかも予防接種を受けに行ったのが原因みたいだって」 「え、そんな事ってあるの?」 普通はないだろうな。 何の為の予防接種だってんだ。 「この間、体調悪いけど旅行に行けなくなったら嫌だからって言って、病院に行ったのは知ってたけどびっくりだよね」 石橋を叩いて渡るつもりが壊しちまったって訳か、谷口相手でも流石に同情するな。 「でも旅行はどうする?今ならまだキャンセルできなくもないと思うけど」 確かに冬休みはまだあるし、谷口が回復してから行ってもいいか。 「谷口は俺の事は気にしないでみんなで行ってきてって言ってたよ。お土産もお見舞いもいらない、温泉饅頭とか買ってこなくていいってさ」 何だその露骨な注文は。 でもまあそれくらいは買ってやってもいいかもしれん、一緒に試験を乗り切った戦友だしな。 とまあそんな理由により、人数は一人減ったものの俺達の温泉旅行は始まった。 と、思ったんだが……。 「国木田君、遅いね」 その違和感に最初に気づいたのは朝倉だった。 電車に乗ってすぐ、座席にも座らないまま国木田はトイレに行ったのだが、すでにいくつか駅を通り過ぎたのにまだ戻って来る気配がない。 混んでるにしても遅すぎるな。 俺は携帯の電源を入れて電話してみようとした、が向こうは電車の中だから電源を切っているのか繋がらない。 ちょっと見に行ってくる。 そう言って立ち上がった時、俺の携帯がメールの着信を伝えてきた――相手は……国木田だと? 『谷口が気になるから、僕はやっぱり行かない事にするよ。旅館に人数の変更は伝えておいたから安心して。朝倉さんの事をよろしく。PS 中学の時と 同じ事にならないようにね』っておい、これはマジなのかよ? 「どうしたの?」 立ち上がったまま携帯を見て固まっていた俺は、朝倉にどう説明していいのかわからなかったのでそのまま携帯を渡した。 中学の時と同じ事……何の事だ? やれやれ旅行初日、行動開始1時間にして4人旅だったはずの温泉旅行は知らない間に2人旅になっていたらしいぞ。 「キョン君、これってどんな意味なの?」 そりゃ気になるだろうな、しかし俺に聞かれても困るだけだ。 俺は朝倉から携帯を受け取り、国木田宛てに『日本語で頼む』とだけのメールを送って電源を切った。 とりあえず問題は残された俺達なんだが。 朝倉、どうする? 「え?」 え、じゃなくてさ。俺と二人っきりになっちまったから。 「なったから?」 わざと言ってるって感じじゃないか。 俺達は高校生で、俺は男でお前は女なんだ。それが二人っきりで旅行ってのはちょっと問題あるだろ。 「私は気にしないよ?でもキョン君、私の事女の子扱いしてくれてるんだ。ちょっと嬉しいかも」 気にしないって……。まあ朝倉がそう言うんだからいいか。どうせ部屋は二部屋取ってあるんだし、俺が気にし過ぎてるだけなのかもしれない。 俺は楽しそうに喋る朝倉のバイトでの話なんかを適当に頷きながら聞きつつ、のんびりと列車の旅を満喫していた。朝倉によると、すでにいくつかの バイト先から卒業後に来て欲しいと誘われているらしい。俺が将来、就職できてなかったら是非拾ってくれ。 「キョン君は進学するの?それとも就職?」 流れからして出ると思ったよ、その質問。 わからん。 我ながらこれ以上ない程に完璧な回答だ。自分でもこれからどうなるのか、どうにもならないのかもわからない。 「私もね、本当はわからないんだ。学校や職場では目的とかやるべき事は理解できるんだけど、いずれ実際に自分が社会に出たらどうすればいいのか、なんて 想像もできない。大学に行くにしても目標がないしね。このままずっと高校生で居られたらいいのに、なんて。そんな事思ったりしない?」 ……それもいいかもな。 「でしょう?でも、そうもいかないんだけどね」 同意する俺に笑顔を向ける朝倉。でもな、俺とお前では学生で居たい理由が違うと思うぜ。 お前は将来への不安からそう思う事もあるんだろうが、俺はただ学校というハルヒ達との接点を失うのが怖いだけなんだ。ここで言う事じゃないから 言わないけどな。 ……国木田、わざとなのか? 旅行客で溢れかえる温泉宿のロビーで、俺は真面目に長年の友の笑顔の下に何が隠されていたのか考えてみた。 って、そんな事してる状況じゃない。 受付へチェックインをしに来た俺に渡されたのは、一本の部屋の鍵。一本だ、二本でも三本でもない。 当初の予定では部屋は二部屋。男3人で一部屋で、朝倉がもう一部屋の予定だったはずだぞ。 「朝方、ご予約の国木田様からのお電話で、都合により人数は二人、部屋は一部屋に変更して欲しいと承っていたのですが……」 ちょうどチェックインの時間なのか、対応に追われる受付のおばさんは俺達だけに時間を取られる訳にはいかないらしく困った顔をしている。 その、空いてる部屋は無いんですか? 「申し訳ありません」 間髪入れずに即答ですか。 「キョン君、私は別に一緒でいいよ?」 後ろで待っていた朝倉はそう言ってくれているが、どうしたもんだ。こっちとしては当日の人数変更が下手すりゃ二回、しかも部屋数変更とまで 無理を言ってるのにこれ以上迷惑をかけるのは流石に抵抗がある……。 わかりました。もし、キャンセルか何かで部屋が空いたら教えてもらえませんか? 麓の駅まで3時間、さらに駅からバスでここまで1時間かかってるんだ。いくらなんでもこのまま来て帰るなんて選択肢は流石に選べやしないぜ。 とにかく部屋で一息つきたかったのもあり、俺はサインを済ませた。 どうやらキャンセルされたのは朝倉の部屋だったらしく、案内された部屋は3人用のそれなりに大きな部屋だった。 窓の外は大雪、なのに純和風の部屋の中は暖房のおかげで快適な温度だったりする。 浴衣でも普通に過ごせそうな感じだな。 気を利かせてくれたのか仕様なのか知らないが、部屋には衝立がちゃんと準備されていた。もしも空室が出なかったらこれで仕切ればいいかな? 「何か御用があれば、インターホンでお知らせください」 愛想のいい仲居さんの案内も終わり、二人っきりになった部屋は暖房の噴き出す音だけが静かに響いている。 「お昼までまだ少し時間があるけど、さっそく露天風呂に行ってみる?」 そうだな、それもいいかもしれない。 あ、そうか。部屋の鍵が一本しかないからどちらかは部屋に居たほうがいいのか。携帯を風呂に持っていくのも何だし、待ち合わせなんてしてたら のんびりできないもんな。旅行先に来た時くらい、誰だってのんびりしたいに決まってる。 俺はしばらくここで雪でも見てるよ、先に入りたいなら行ってきていいぜ。 「そう?じゃあお言葉に甘えて」 準備を終えて朝倉が出て行った後、俺は窓辺に置かれた椅子に座ってのんびりと風景を楽しむ事にした。せっかくの機会だ、今はちょうど朝倉も居ないし 多少寒くなっても構いやしない。 俺は少しだけ窓を開けてみた。 雪って無音じゃないんだな、初めて知ったよ。 窓を開けると、外の冷気と一緒に雪の音も入り込んできたんだ。 しんしんと積もるって表現があるのも無理はない、降り注ぐ大きな雪の結晶はさらさらと小さな音を絶え間なくたてている。まるで全てを包むかのような その光景に、俺は何も考えないままじっと目を奪われていた。 「綺麗ね」 いつのまに帰ってきたんだろう。その声が聞こえるまで、対面に置かれた椅子に朝倉が座っている事に俺は気づかなかった。 あれ、風呂に行ったんじゃなかったのか? 朝倉は着替えを持って行ったと思ったが、何故かここへ来た時と同じ服を今も着ていた。 「団体さんが先に入ってて、脱衣所の所で引き返してきたの」 まだ昼間なのに意外だな。 到着早々、他にする事もあるだろうに。人の事は言えないが。 「さっきフロントを通った時に聞こえて来たんだけど、近くの道路が雪崩で通行止めになっちゃったみたい。だからスキーに行く予定だった人も 足止めされちゃってて、他にする事が無いのかもしれないわね」 地元の人間じゃないと詳しい事はわからないが、殆ど雪が降らない所に住んでる俺から見たらこの雪は10年に一度降るかどうかの大雪に見える。このまま 雪が降り続けたりでもしたら、道路が全部通れなくなっても不思議には思わないな。 っていうか、古泉の孤島の時といい俺が行く場所はなんで天候が荒れるんだ?雨男だったのか、俺。 「どうかしたの?」 ん、ああ。 無言で居る俺を、朝倉は気にしているようだ。 特に何も意味のある事は考えてなかったんだが、強いて言えばそうだな。 このまま雪が降り積もって、帰れなくなったらどうしようかって思ってさ。 言いながら自分でも考えてみたが、のんびり温泉にでもつかりながら春を待つのも悪くないかもしれない。 朝倉は少し考えた後、 「そうね。もし、そうなったらのんびりここで温泉にでも入って過ごして春を待つのはどう?」 まさか朝倉からそんな言葉が出てくるとはね。 その時、まるで会話の途切れるのを待っていたんじゃないのか?というタイミングでドアはノックされ、昼食が運ばれてきた。 運ばれてきた料理は素人の俺が見る限り純和食で、ボリューム的にはどうなのか?と思ってしまったのだが、想像は良い方に裏切られた。 一品の量は少ないのだが、品数は多く味もいい。あの料金でここまで手が込んでたら経営が成り立つのか?なんて無駄な心配をしてしまうくらいだぜ。 「川魚って泥臭いイメージがあったけど、上品な味で美味しいのね」 ここが山奥で、水源に近い所だからかもな。 海にしろ山にしろ人間から遠ざかれば遠ざかるほど、魚は美味しいっては俺の持論だ。 「キョン君って魚釣りとかするの?」 それなりにな。ああ朝倉、その魚の骨は少しあぶってから食べると癖になる味だったりするぞ。 むしろそこがメインだ。 「……わ、本当だ。なんだか、キョン君の意外な一面を見ちゃったかも」 むしろ今まで俺をどんな風に見てたのか、それが聞きたい。 結局、手の込んだ料理の数々に一つとして不満は出ず、俺はこの時点で今回の旅行は大成功だったと確信していた。 谷口と国木田には悪いが、楽しいものを楽しまないってのはもっと罪だよな。 「もう一度温泉を見てくる」そう言い残して朝倉は部屋を出て行き、満腹になった俺は早くも楽な格好で横になる事にした。 雪が降るのを暖かい部屋で見ながらのんびり昼寝、これ以上の贅沢って奴は俺には思いつかないね。 布団を出すのもなんなので、座布団を並べた上に寝転ぶ。 あー別世界だな、これはもう。 理想的な状況にいつの間にか寝てしまったらしい。ぼんやりと目を覚ました時、俺は仰向けに寝ていて視界には天井が広がっていた。 何かが動く気配に視線だけ向けると、長い髪の女が今まさに浴衣に着替えている所……ってえ! 慌てて目を閉じた――が、色々と何かが見えてしまった気がする。 いや、気のせいだ。もしくは夢だ。 つい目に焼き付けてしまったこの映像に関しては、言及を避けさせて頂く。 「あ、起しちゃった?」 高い位置から朝倉の小さな声が聞こえる、ここはどうする?寝たふりか?いや違う、本当に寝てるんだ俺は。 俺は全身に脱力しろと指示を出す、自慢じゃないが脱力には自信があるぞ? 本当に自慢にならんが。 「……キョン君、起きてるでしょ」 今度はさっきより少し楽しそうな声が聞こえてくる。しかもどうやら近寄ってきているらしい。 何故だ、完璧な寝たふりのはずだぞ? 疑われる要因なんて無いはずなのに。 「早く起きないといたずらしちゃうよ?」 顔の横に朝倉が座る気配がする、ここは……そうだな。鼻をつままれたりでもしたら目を覚ますってのはどうだ? 動きそうになる顔の表情筋の緊張と闘っていると、顔の上に何かが近づいてくる気配と、冷たく柔らかい何かが唇に触れて……。 目を見開いた俺が見たのは、目の前で楽しそうに微笑む朝倉の顔と俺の唇に触れる朝倉の細い指だった。 「ほら、やっぱり起きてるじゃない」 今ので起きたんだ、なんて言い訳をしても仕方ないよな。 頭をかきながら体を起こす、なんとなく外を見てみるとまだ明るかった。 あれ、風呂に行ったんじゃなかったのか? 「うん、行ったけどまだ入れそうになかったから戻ってきたの」 言いながら朝倉は、着替えの入った袋から小さな木の板を取り出した。 そこには数字と、達筆過ぎて読めない漢字で何とかの湯と書かれている。 「それでね?予約制の家族風呂ってお風呂があるみたいで、さっき予約してきたの。私の時間までは後20分くらいかな」 なるほどね。 何度も通って温泉が空くのを待つより建設的だな。 「2時間まで使っていいって話だから1時間交代で入ろっか?」 ああ。 普段なら10分で終わる俺の風呂だが、温泉となれば話は別だ。 時間が来て朝倉が部屋を出て行った後、俺は自分の携帯を取り出した。電源を入れ忘れてたってのもあるが、それ以上に事情を説明して欲しい事が ある。もちろん聞きたい相手は、出発早々に姿を消したあいつだ。 「無事に着いたかな?」 ああ、何とかな。 電話越しに聞こえる国木田の声は、あまりにもいつも通りだった。 「そりゃあよかった。朝倉さんもそこにいるの?」 いや、今は風呂に行ってるよ。 「そっか。ねえキョン、僕に電話してきたって事は聞きたい事があるんだよね」 よくわかってるじゃないか。結論から聞こう、朝いきなり帰っちまったのも、部屋の数を勝手に減らしたのもわざとなんだな? 「うーん、わざとって言われると答えに困るんだけど。でもまあいいか。キョン、怒らないで聞いてね?」 返答による。内容によっては、土産が温泉饅頭から温泉卵一つまで格下げだ。 「僕を怒るのは別に構わないよ、それと温泉饅頭よりも温泉卵の方が僕は好きだな。まあとにかく最後まで聞いてよ」 そう前置きしてから、国木田は事の顛末とやらをのんびりと話し始めた。最初の内は何を言ってるんだ? くらいに思う内容だったが、後半までくると もう何がなんだかさっぱりわからなくなっていた。 「これで全部だよ。ねえキョン、メールの最後に書いた中学の時の事って所覚えてる?」 ああ、あれは何の事なんだ? 「それって本気で言ってるの?」 本気も何も、意味がわからない。 「……まあ、僕が言っても仕方ないよね。まあゆっくり考えてみてよ、朝倉さんによろしく」 そう言って、国木田は携帯を切ってしまった。それにしても中学の時って言えば3年もあるんだぞ? 何かを伝えたいにしてももうちょっと範囲を絞って くれてもいいと思うんだが。 物言わぬ携帯を見ながらしばらく考えてみたが、それらしい事はやはり思い浮かばなかった。 そんな事をしていると部屋の入口の方から鍵を開ける音が聞こえてくる、どうやら朝倉が戻ってきたみたいだな。 「ただいま。凄くいいお風呂だったよ、景色もお湯も最高」 そうかい。 湯上りの朝倉は上機嫌で、薄赤く火照った顔はいつもと違った感じだ。 さて、ここで国木田から聞いた事を朝倉に問い詰めてもいいんだが、せっかく楽しそうにしているのに水を差すのもどうだろう。それに、これが全部朝倉が 何かを考えてやってる事なら、俺は知らない振りをしていたほうがいいのかもしれないよな。 「はい、これ。あんまり遅いようなら呼びにいくけど、のぼせたりしないでね」 夕飯までには戻るよ。そう言い残し、俺はとりあえず国木田の事も朝倉の企みの事も考えるのを止めて温泉へと向かった。 顔に感じる冷えた空気と、体を包み込む体温より遥かに高い温度のお湯。日が落ちかけた空がゆっくりと闇に染まっていく――俺は湯気に包まれながらそんな 絶景を眺めていた。 来てよかった、なんて凡庸な言葉じゃ表現しきれないね。ああ、でもそれでいいのか。これは言葉で伝えていい物じゃない。 入口に書いてあった説明によると、ここの温泉はかけ流しって方式だそうだ。意味はよくわからないが、湯量が豊富とかでお湯の再利用とかする必要がないから どんどんお湯が湧いてきていて、そのまま止まる事なく川に行くらしいぞ。 家族風呂は貸切りだけあってそんなに広くはないが、二三人なら入れそうな広さがある。それを一人で使ってるっていうんだから贅沢だよな。 とまあ、俺はひたすらに現在の状況を楽しみながら温泉を満喫する事ができた。 温泉の効能なのかどうかは知らないが、利用時間ぎりぎりで風呂を上がった時には肌は妙につるつるで、ついでに国木田との電話の事は綺麗に忘れてしまって いたりしたくらいだ。出口にあった昔懐かしい60円の瓶に入ったフルーツ牛乳にはかなり心惹かれたのだが、夕食が近い事もあって次回への楽しみにと我慢する のには苦労したぜ。 そして夕食、部屋に戻った俺が見たのは昼以上の品数の料理がぎっしりと並べられたテーブルだった。 「おかえりさない。凄いでしょ、これ」 ああ、なんていうか絶対に食べ切れないな。 谷口が居ればどうにかなったかも知れないが、俺と朝倉ではどう考えても食べきれない量だ。その時は確かにそう思った。 しかし、旅先ってやつは不思議な力でもあるのかもしれない。なんだかんだで俺は自分の分を食べきってしまい、朝倉が残した分も含めて殆ど平らげてしまったり した。こんなに大食いだったか?俺。 「こんなに食べたのはじめてかも?」 朝倉も自分の食欲に驚いているみたいだな、夕飯が終わったらもう一度温泉に行くつもりだったんだがしばらくは行けそうにない。帰りにしてきた家族風呂の 予約は取り消した方が無難だな。 朝倉、風呂の予約なんだけど取り消してきていいか? 「うん、お願い。今日はもう行けそうにないかも」 嬉しそうな顔で朝倉は苦笑いしている、俺もそんな感じだ。 このままでは寝てしまいようだし、面倒な事は先に済ませよう。俺は休憩しろと訴えている体をなんとか動かし、ロビーへと向かった。 「わかりました、お布団の方はもう敷きに伺ってもよろしかったですか?」 木札を受け取りながら宿の人は笑顔で聞いてくる、そうだなまだ8時にもなってないが今日は移動で疲れてるしその方がいいかもしれない。 お願いします、そう言い残して俺はふらふらと部屋へ戻った。 どんな連絡方法を使っているのか知らないが、俺が部屋に戻った時はすでにテーブルは空になっていて部屋の隅に移動してあり、代わりに部屋の中央には 布団が2組並べられていた。 「おかえりなさい」 窓際に座った浴衣姿の朝倉が微笑んでいる。風呂上がりのせいなのかほんのりと赤い頬……っておい、ちょっと待て。 朝倉、手に持ってるそれは何だ。白い陶器でできたそれの事だ。 「これ? 部屋の冷蔵庫にあったの。キョン君も飲む?」 朝倉が持っているのはどうみてもアルコール、ジャンルで言えば日本酒だった。おいおい、高校生が泊まる部屋にそんな物置いておくなよ? ご機嫌な朝倉は 何かのメロディーを口ずさみながら、窓の外を眺めている。まあ、こんな時くらいはいいかな。 俺は朝倉の向かいに座って、空になっていたお猪口についでやる。 嬉しそうに朝倉はそれを受け取り、一気に飲み干してしまった。 おいおい、そんな無茶な飲み方をするとだな。 俺の話が聞こえていないのか聞いていないのか聞く気がないのか、まあとにかく朝倉はいつになくマイペースでお猪口の淵ををっと指でふき取ると 俺に向かって差し出してきた。えっと、つまり俺にも飲めって事なのか? 何か言うのではないかと待ってみたが、無言のまま朝倉はお猪口を差し出してきている。 一杯だけだからな。 そう念を押してから俺はお猪口を受け取った。 それが間違いだった。 朝倉はハイぺースで酒を飲み干していき、俺が止めようとすると泣きそうな顔で抵抗してきた。しかも無言のまま。いったいなんなんだろうな? これは。仕方なく朝倉の飲む量 を減らそうと俺も飲んでしまった結果、酔っ払いが二人できあがった訳だ。いかん、もう世界が揺れている。神人でも出たのか?古泉出番だそ。 「……ね~キョン君」 窓によりかかった朝倉が久しぶりに喋った気がする。 なんだ、酒ならもう冷蔵庫の中にあったのは全部飲んじまったから無いぞ。 多分別料金なんだろうけど、帰りの支払いは大丈夫かね? なんて、どこか冷静さを残している自分が嫌だな。こんな状況ならむしろ何もかも忘れちまって た方が正しいと思う。 「ごめんね? 謝っても許してなんてもらえないんだけど、どうしても言いたかったの」 ふらついていた朝倉の視点が、なんとか俺の顔をとらえていた。謝るって何の事だろう。再び朝倉の視点は何もないテーブル辺りに流れていき、このまま寝て しまうんじゃないだろな? と俺が心配し始めた頃、朝倉はのんびりとした口調で話しはじめた。 「私ね? 統合情報思念体の庇護があった頃の自分を思い出すと嫌になるの。自分なら簡単にできる事や、すでに知ってるどうでもいい知識を、何年もかけて 必死に勉強してる人の中で、本当の自分をずっと隠したまま過ごしてるのは苦痛だった。長門さんのあの性格も、今考えればそれが適正だったのかも。 変わらない毎日といつまで経っても終わらない観察。今日も何事もありませんでしたって、何年も何年も報告し続けてた。だからって、貴方にした事は許される わけがないただの私のエゴ。許してなんてもらえないって、わかってる」 そこまで喋った所で、朝倉は急に黙ってしまった。 俺に何か言って欲しいって感じじゃない。ただ、言いたかったんだろうな。 今更だが、終わらない夏休みを結局最後まで誰に相談する事もなく乗り切っちまった長門が凄い事がよくわかる。俺にはむしろ、朝倉の気持ちは理解できる 範囲の物さ。まあ、刺されるのはもう御免こうむりたいが。 朝倉。 「……うん」 少し眠くなっているんだろうか、朝倉の返事は小さかった。 明日まで覚えてられないかもしれないが、あの時の事はもう気にしなくていいぞ。 「……うん」 その返事を最後に朝倉は熟睡してしまい、俺は揺さぶったり濡れタオルを顔に当てるなど頑張ったものの全て効果なし。仕方なく布団まで朝倉を運んで 旅行1日目は終わった。 翌朝。訂正、翌昼とでも言うべきだろう。俺が起きたのはすでに正午を回った時間だった。 目が覚めて最初に感じたのは胃の不快感、次に感じたのは頭痛。言い訳しようもないくらいに二日酔いって奴だな。 「おはよう? 顔色良くないよ、大丈夫?」 ……お前は元気そうだな。 朝倉はといえば俺よりも飲んでいたはずなのに元気な顔で、湯上がりなのか髪を拭いている所だった。 「起きられそう? 朝ご飯のお味噌汁を残してあるんだけど飲めそうかな」 ああ、頼む。 何とか体を起こしてはみたが、今日はもうこのまま寝ていたい気分だ。甲斐甲斐しく動いてくれている朝倉の姿を目で追うのも億劫で、俺はぼんやりと 布団を眺めていたりした。やがて鼻をくすぐる味噌の匂いが漂ってくる。するとまるでスイッチが入ったみたいに何も食べられそうにないと思っていた胃が 突然空腹を訴えてきやがった。 「はい、温め直したばかりだから火傷しないでね」 そう言ってお盆ごと渡された味噌汁は、茸が一杯入れられた軽食になってしまうようなボリュームで早々と俺の胃は満足してしまった。我ながら忙しい奴だぜ。 ありがとう。 空になった食器は朝倉がテーブルまで持って行ってくれた。さて、今日はどうしようか。本当にこのまま寝ているってのも悪くないと思うが、せっかくここまで 来たんだしな。 「ねえ、昨日の事って覚えてる?」 雪ダルマでも作ろうか? と考えていた俺に朝倉は少し恥ずかしそうに聞いてきた。 昨日の事、ああ。あれか。 その続きが聞きたいのか、朝倉は俺の顔をじっと見て黙っている。 あんまり飲み過ぎるのはどうかと思うぞ。まあ、俺と違って翌日に残らない様に飲めるのは大したもんだけどな。 「あ、そうだよね。恥ずかしい所みせちゃったな」 俺の言葉に照れながら笑う朝倉。その笑顔はいつもクラスで見せている整い過ぎた笑顔ではなくて、今は何か楽になったような感じだった。朝倉、長門じゃない けどな、お前も少しは人を頼る事を覚えた方がいいぜ。あんな酩酊しないと本音を言えないようじゃ、生きていくのが辛すぎるぞ? 何て言われた所で生き方を 変えるような奴には見えないんだけどな。――そうだ、朝倉に俺が言ってやれる事が一つあるじゃないか。もしかしたら、朝倉が聞いた昨日の事ってのはこの事 なのかもしれない。 朝倉、本当にもう気にしなくていいからな。 「え?」 俺の言葉に朝倉はしばらくじっと俺の顔を見つめていたが、やがて小さく「うん」と言って頷いた。 ――その日、結局俺は日中の殆どを寝て過ごしてしまった。 せっかくの旅行なのに何をやってるんだ? と自分でも思ったのだが、布団の心地よさの前にあっさりと屈伏してしまったのさ。その間、朝倉は温泉巡りに 勤しんでいたらしい。一緒に来てるのに一人にしてしまって悪かったな、と言おうと思ったが朝倉は楽しそうに入った温泉の違いなんかを話しかけてきたので 言わないでおく事にした。おかげで退屈する事もなく時間は過ぎていってしまい、気づけばもう夕食の時間だ。明日の朝には帰るんだよな? なんか現実感が ないぜ。まだ初日の夜なんじゃないかって気がするくらいだ。 初日同様、大量に並べられた夕食の前に朝食と昼食を食べ損ねた俺は気合いを入れて臨もうとしたが、 「あんまり食べると温泉にいけなくなるよ? もう入らないのならいいんだけど」 寝ている間に予約しておいてくれたらしい、朝倉の手にはあの木札があった。 危なかった、昨日と同じ展開になるところだったぜ。 朝倉の忠告があったおかげでそこそこの量で夕食を終え、俺達は予約の時間までのんびりと待つ事にした。あの料理が美味しかったとか、休憩室の 足裏マッサージが気持ちいいとかそんな話題が続いていた時の事だ。会話の合間で不意に訪れた沈黙、こんな時いつもなら朝倉が何か話しかけてきそうな ものなんだが、その時は何故か俺が話かけていた。しかも、言うつもりのない話題を。 朝倉、国木田から全部聞いたぞ。 それまで笑顔でいた朝倉の顔に驚きと、戸惑い。その他色んな感情が混ざったような複雑な表情が浮かんだ。言うべきじゃなかったな、やっぱり。でもまあ 言いかけた以上は最後まで言うしかないだろう。俺は腹をくくってその先を続けた。 教えてくれ、何で俺と二人で旅行に来たかったんだ? 国木田から聞いた話によれば、だ。 今回の旅行は最初は確かに4人で行くはずだったらしい、ところが出発前日になって国木田に谷口から電話があったそうだ。内容は「俺は行けなくなった3人で 楽しんできてくれ」だとよ。しかも行けない理由ってのはインフルエンザではないらしい。 それから、国木田はまず朝倉と連絡を取ったそうだ。予約の関係を全部やってくれたのは朝倉だったからな。国木田は朝倉と話をして、何故か国木田も不参加を 決めたそうだ。1週間近く前から計画していた旅行を前日に行くのを辞める理由ってのはなんなのか、しかも集合には顔を出しておいて途中で居なくなるなんて 事をやった理由は?わからない事だらけだが、何故朝倉は全部知っていて俺には何も言わなかったんだ? 聞きたい事は他にもあるが、朝倉ならいちいち言わなくても全部話してくれるだろう。 しかし、よほど言いづらい事なんだろうか? 朝倉は困った顔で視線を彷徨わせていた。 そしてようやく口を開いた第一声が、 「あのね。旅行の前日に、その。谷口君に……告白されたの」 これだった。 あいつ、本気だったのか。冗談だとしか思ってなかったんだが……でもこの旅行に来なかったって事は結果は多分駄目だったって事なんだよな。 聞いておいてなんだけど、個人的な事だったら無理に言わなくてもいいぞ。 「うん……でも今言わないと言えなくなりそう。谷口君には、他に好きな人が居るからごめんなさいって言ったの。それから国木田君から谷口から話は聞いたよって 電話があったの。国木田君は、好きな人が居るならその人と二人で旅行に行った方がいいんじゃない? って言ってくれて。その人は恋愛感情に疎いから、 僕も協力するよって……その」 ここまでくれば、流石に俺でも気づく。 国木田は、俺が朝倉と二人だけだと知ってたら旅行を止めてしまいそうだから一芝居打ったって事か。 肯く朝倉。つまり、その恋愛感情に疎いらしい朝倉が好きな人ってのは、だ。 「私が、キョン君と一緒にここへ来たかったのは……。私がキョン君の事を、好きだから」 あの、いつでも冷静で人当たりのいい笑顔を絶やさない朝倉が、今は真っ赤な顔で俺を見ている。 夢か? 夢なのかこれは? それともそこの襖の向こうで谷口が待機でもしてるのか? しかし、どれだけ待ってもプラカードをもった谷口は現れなかった。 「やっぱり。迷惑かな」 俺が無言でいるのを、朝倉は否定と取ったのだろうか。今ならはっきりわかるぜ、クラスで見せていた無理に作った笑顔って奴を浮かべて俺を見ている。きっと朝倉は、 自分の感情を隠す時はこの笑顔で自分を覆っていたんだろうな。誰にも本当の事を伝えられない時間の辛さって奴を、俺は少しは知っているつもりだ。 勉強会で朝倉がたまに俺へと向けていた笑顔は、ここに来て俺に見せてくれていた素の朝倉と同じだって事も今ならわかる。 朝倉。 「……うん」 何も躊躇う事はない、自分の気持ちを伝えてやればいいだけだ。それだけの事のはずが、喉はやけに渇いてくるし手の平は汗ばんでいた。悪いな、こんなに 緊張する事をお前に先に言わせるなんてずるいよな。 朝倉の目は震えている。そうだな、いつからそうだっかなんて覚えてない。けど間違いなく――。 俺も、お前の事が好きだぜ。 そう言い切った途端、朝倉の体が小さく震えだしそのまま泣きはじめてしまった。 「本当に重くない? 大丈夫」 平気だ、っていうか軽すぎると思うぞ。 壁際に座った俺に遠慮しながらもたれてくる朝倉は、冗談ではなく本当に軽かった。ようやく泣き止んだ朝倉は、泣きすぎて変な顔になってるから見ないで、と 顔を隠してしまった。でもそれじゃ話もしにくいだろうって事で、俺が背もたれになったって訳さ。決して下心があった訳じゃないぞ。 朝倉、なんのシャンプー使ってるんだ? 「え、変な匂いだった?」 驚いて振り向く朝倉の目は、本当に真っ赤になっていた。これはこれで可愛いと思うんだがな。 いや、いい匂いだぞ。俺は好きだ。 「……よかった。シャンプーは石鹸シャンプーを使ってるんだけど、リンスにお酢とアロマエキスを自分で混ぜたのを使ってるの」 随分と手が込んでいるだけあって、朝倉の長い髪は俺とは構成材料が違うんじゃないかってくらいに綺麗だ。 なんとなく髪を撫でている時に思いついた。 朝倉、ポニーテールってできるか? 「え、できるよ。ちょっとまってね」 髪ゴムを取って戻ってきた朝倉は、目の前でポニーテールを結んで見せてくれた。サイドの髪は残したままのスタイルか、実にいいね。 似合ってるぞ、それ。 「本当?」 ああ。 「じゃあ、これからずっとこうしていよっと」 尻尾を揺らしながら朝倉はまた俺にもたれてきた。浴衣越しに感じる朝倉の鼓動が自分の鼓動に重なる。俺だって健全な男子高校生であり、こんな状況で あれば眠れない夜なんかについ耽ってしまう妄想を現実にしてしまってもいいんじゃないのか? なんて事を考えるのも無理は無いだろう。しかし、だ。実際に 背中からとはいえこうして抱きかかえてみると、朝倉の体は力を入れてたら壊れちまうんじゃないか?――まあ、壊れまではしないんだろうが――と思うほどに 華奢で、産まれたての子猫を不器用に両手で支えるような慎重さで俺は朝倉の体を包むのが精一杯だった。 あ、しまったな。 別に悪い事じゃないんだろうけど、俺はさっき朝倉に言った言葉が以前ハルヒ相手に言った言葉と同じだった事に気づいた。自分のボキャブラリーが少ない せいなんだが、なんとなく不誠実というか申し訳ない気分になる。でも、これって朝倉にわざわざ言う事じゃないよな。 「どうかしたの?」 俺の罪悪感でも感じ取ってしまったんだろうか、朝倉は俺の顔を横目で見ている。 なあ朝倉。秘密って無い方がいいと思うか? 「どうしたの急に」 いや、深い意味は無いんだ。 「そうね。……無いほうが良いとは思うんだけど、私はキョン君に言えない事もあるから、二人の間に秘密があってはいけないって言われると苦しいな」 そうなのか。 「こんな事言ったら余計に聞きたくなるよね。でも、言うと嫌われそうな事だから、できれば聞かないで欲しい」 じゃあ聞かないさ、変な事を聞いて悪かったよ。 お互いにそこそこの時間を生きてきてるんだ、言うまでも無い事や言えない事の一つや二つあるのが普通だと思う。 「……ねえ。一つお願いがあるんだけど、いいかな。」 言ってみな。 「あのね、その。急にこんな事言われて困ると思うんだけど、今じゃなきゃ言えない事だって思って、その」 さて、どんなお願いなんだろうね? とのんびり待っていた俺に、朝倉が言ったお願いとは… 「一緒に……温泉に入らない?」 結論から言おう、いいお湯だった。以上。 あ、他に何か言うことがあるだろうって? そんな物はない……ああ、朝倉はポニーテールが濡れない様にまとめてお団子にしていたぞ。あと、ちゃんと バスタオルも巻いてた。これで十分だよな? 温泉から上がった後は二人でフルーツ牛乳を飲んで、湯冷めする前に眠ったよ。布団? ……一組しか使ってない、それだけだ。 細かい経緯や心情描写は脳内で補完して貰えれば幸いだ、俺が恥をかくぶんにはどうでもいいが朝倉の名誉だけは断固守らせてもらう。しかしまあ、 ここまで読んでもらって何も伝えないのもどうかと思うから一つだけ言おうか。 朝、目が覚めた時。朝倉はまだ俺の隣で眠っていた。携帯で見た時計はまだ5時で、俺は二度寝しようと再び目を閉じた。しかし何故だか眠気は戻って こなかったので、俺はせっかくだからと朝倉の寝顔をじっと見ていた。ほんの2時間程の事さ。 「……おはよう」 ようやく目を覚ました朝倉が微笑む。なんていうのかね、これが幸せって奴なんじゃないだろうか? 以上、惚気はここまでだ。満足したかい? 朝食後、のんびりと帰り支度を済ませた俺達は少し早めに宿を出た。 夢のような、というか本当に現実なのかも怪しい程にサプライズ満点だった温泉旅行は無事に終了し、久しぶりに戻ってきた駅には何故か国木田と……。 「……お、お幸せにー!」 俺と腕を組んで改札を出てきた朝倉を見て、何か叫びながら走り去る谷口の後姿があった。 おい谷口! 土産……あいつ、何しにここまで来たんだ? 「どうしても自分の目で見ないと納得しないって谷口が言いはってさ。まあ気にしないでよ。それより温泉は楽しかった?」 何事も無かったかのように国木田はさらりと言いきった。 ああ、何か気を使わせちまったみたいだな。これは土産だ、谷口の分も入ってるが好きに分けてくれ。 「こんなにいいの? あ、温泉卵もある。ありがとう」 「国木田君本当にありがとう。せっかくの旅行だったのにごめんね?」 「気にしないでいいよ。谷口は自爆で、僕は勝手にやった事なんだから」 お前、本当にいい奴だったんだな。 「気づくのがいつも遅いんだよ、キョンは」 何故か寂しそうな顔で国木田は笑った。 谷口の予言によれば俺はすぐに飽きられて振られるそうなんだが、冬が過ぎ春が来た今も俺は朝倉との付き合いは続いている。 二人の間であった事といえば、そうだな。俺が朝倉に涼子と呼んで欲しいと懇願されてるのにをまだ朝倉と呼んでいる事と、一人暮らしで身寄りが無い事を 理由に朝倉のマンションで同棲生活をはじめた事くらいだろうか。詳しくは聞くな、惚気にしかならない。 元々放任主義だった親にこの時ばかりは感謝したね。というか、何度か遊びにくる内に朝倉が自分で生活費をしっかり稼いでくる優等生だと知った親がむしろ 俺を教育してもらうつもりで許可したのかもしれないが。 テーブルの向こうで恋人兼先生である朝倉が何かを期待した目で俺を見ている。もう少し待ってろ、最後の問題ももうすぐ終わるからな。 今日はこの問題が終われば勉強はおしまい、後は二人の時間って奴だ。 さて、長かった俺の話もいよいよこれで終わりだ。 これから俺達がどうなったって? そんな事は誰にもわからない事さ。でもまあ、俺の隣にはいつも朝倉が居る。 それだけは間違いないね。 朝倉涼子の誰時 季節は春、高校2年になった俺はまた朝倉と同じクラスだった事を喜び、ついでに国木田と谷口まで同じクラスだった事も建前上喜んでおいた。 勉強会は結局旅行後はなくなってしまった。まあ、仕方ないよな。それでも国木田が勉強を教え続けているせいなのか、谷口のテストの点は 上がったままだ。 しかもどうやら俺にテストで勝つのが今の目標らしく、毎回の様に結果表を見ては悔しがっている。悪いな、こっちの先生は特別なんだよ。 そんなどこまでも平和で、何一つ不思議な事等起こる気配も感じない生活を続けていた俺達だった――んだ、その時までは。 だから俺はあの感情を感じさせない同級生の顔を久しぶりに見たとき本気で驚いた、冗談抜きで錯覚だと思ったさ。 いつものように他愛も無い話をしながら学校から帰った俺達を待っていたのは、間違えるはずも無いマンションの入り口で一人立つ長門だった。 長門! 思わず俺は走り出していた、迫ってくる俺に対して長門は何の反応も無い。 お前、怪我は無いか? 今までどこに居たんだ? みんなは? 俺の顔をじっと見つめるだけで、長門はどの質問にも答えはしなかった。しかも何故か着ているのは冬制服だったりする。 「……」 長門? 久しぶりに聞いた同級生の第一声は、やはり感情の感じられない声で 「朝倉涼子と話をさせて欲しい」 だった。 そりゃあ構わないが…長門、 「……貴方の質問に今は答える事ができない。でも後で必ず話す。約束する」 まさか、朝倉をまた消してしまうとかそんなんじゃ? 聞いてくれ、今の朝倉はもう普通の人間で危険なんか何も 「大丈夫よ、そんなに心配しないで?」 長門を説得しようとした俺を止めたのは、朝倉だった。本当に大丈夫なんだな? そう視線に込めてみると、朝倉はその意味がわかったようで ゆっくりと肯く。 わかったよ。俺は家に帰ってればいいか? 「うん、ごめんね?」 まあ、何かあるにしても俺に相談も無く長門は無茶なことをしないだろうしな。 俺はそれ以上深く考えず、持っていた朝倉の鞄を渡した。 じゃあまたな。 「じゃあね」 いつもの朝倉なら、絶対に「また明日ね」とか、「また来週ね」と言っていた事に俺は結局気づかなかった。 「お久しぶり、こうやって長門さんと話すのはあの教室以来になるのかしら」 505号室。殺風景だった朝倉の部屋は今では二人の私物でそれなりに手狭に感じる。 「……」 長門は入り口でじっと立ち尽くしている。 「立ち話もなんだしどうぞ座って? すぐに紅茶を入れるから」 キッチンから聞こえる朝倉の声に従い、長門は迷う事無くソファーに向かう。 しばらくして、紅茶の香りと一緒に朝倉がティーセットを持って戻ってきた。 「お待たせ。……それで、どんなお話なのかな。情報の共有で伝えられる事ならそうしてもらってもいいんだけど」 朝倉の言葉に長門は首を小さく振る。 「できない」 「え」 「今の貴女では情報の共有には耐えられない。貴女が思う以上に、残された時間は少ない」 「残された時間って」 「貴女には、もうその有機情報を維持するだけの力は残されていない。十数分後には限界を向かえ、情報連結の解除が始まる」 長門の言葉は、何故か苦しそうだった。 暫くの沈黙の後、 「そっか、そうだったんだ。ねえ、私へのメッセンジャーとしてわざわざここに来た訳じゃないんでしょ?本当の要件を教えてよ」 「……涼宮ハルヒは、現在も異世界に自分を閉じ込めている。本来であれば、貴方は彼に協力して涼宮ハルヒを救い出すはずだった。何度か歴史を修正する チャンスはあったが、そうはならなかった。貴女は彼と生きる道を選び、また彼もそれに同意した。結果、涼宮ハルヒはこの世界に戻る事もなく、自立進化の 可能性が見出せないとして統合情報思念体は地球というこの星に興味を無くした。しかし宇宙のどこを探しても涼宮ハルヒの様な存在は見つけられないでいる」 「そっか、そんなシナリオだったの」 長門の顔が、見るからに苦しそうに歪んだ。 「貴女の消滅に合わせて、情報統合思念体により世界が涼宮ハルヒが消える前の状態に再構成される」 「それって、私はまた一人ぼっちになるって事なの?」 「……違う。本来あるべき時間の流れが変えられてしまった事で、情報統合思念体は貴女の存在を危険視している。再構成された世界に貴女は居ない」 「なんで、長門さんが泣いてるのよ」 長門は声も無く、ただ涙を流していた。 「よく、わからない」 「今、貴女の目から流れてるのは涙って言うの。人間は悲しい時にそれを流すのよ」 「よく、わからない。……情報統合思念体には、貴女の存在が消えるまでは涼宮ハルヒが二人によって救出される可能性があると報告してきた。でも、 貴女の消滅が迫った事でそれももう不可能になった。私にはもう、どうする事もできない」 二人の間に痛いほどの沈黙が流れる。 その沈黙を破ったのは朝倉の明るい声だった。 「あ~あ、残念。せっかく彼とうまくいってたのにな……でも、どうせ私が消えて彼だけが残されるくらいなら、私の居ない時間まで戻った方が彼も幸せよね そんなに泣かないでよ。最後くらい、私も笑っていたいんだから」 そう言って笑顔を浮かべる朝倉。 やがて迷うように長門は口を開いた。 「貴女が望むのならば私の中に貴女の情報の一部を残す事は可能、現在の記憶の保存と視覚や聴覚といった感覚は私と同期する事ができる。ただし、推奨はしない」 「どうして?」 暫くの沈黙の後。 「万一、私の機能が停止した時は貴女の中に私のデータを保存する為のバックアップが生まれる。その状態では有機生命体として活動する事はできない、 情報統合思念体の保護を待つ間の待機状態。保護されるまでの間は、情報収集の為に貴女と常に同期した状態になっている。今回も、そうだった」 「あ……ごめんね。ごめんね? 私、長門さんが彼の事好きだって知ってて」 遮る様に首を振る長門。 「彼には。貴女が必要だった」 「……ねえ。後、どれくらい時間はあるの?」 「殆ど残っていない」 「ありがとう、ぎりぎりまで彼と一緒にいさせてくれたんだね。ねえ、泣かないで? 悪いのは私、彼が欲しくて涼宮さん達を取り戻せるチャンスがあっても 無理だって嘘をついて来たんだもん。自業自得よ」 朝倉は本当の笑顔を浮かべて、長門の手を取った。 「ねえ、長門さんとの同期。お願いしてもいい?」 「……何も言えず、触れる事もできない時間は辛い」 「それでもいいの」 「……了解した」 朝倉の最後の言葉を待っていたかのように情報連結の解除がはじまった――光の粒になって朝倉の体が消えていく……。 最後の瞬間まで、朝倉は微笑んで長門を見つめていた。 ありがとう。 「じゃあね、彼とお幸せに」 その言葉を最後に、朝倉涼子の存在は――消えた。 ――お父様は自立進化する事の大切さを私に教えてくれた、それを正しいと私も思うし理解もできる。 でも、自分の力だけではなく、互いに助け合って生きる事の素晴らしさを彼は教えてくれた。だからこそ、自分の残された時間が長くないってわかってても私は それを彼にも伝えず、平凡な毎日に無理な変化も求めなかった。定められた寿命に気づく事無く、それを全うして生きる。 結果として何も残らなくても、その時間は無駄なんかじゃない。決して、無駄ではない。 何故なら、私はそんな時間を彼と過ごせた事を誇りに思ってるもの。 お父様も、いつか答えは一つじゃないって事にきっと気がつくはず。 もしも願いが叶うなら――また彼と。 後日談 12月24日。 終業式も無事に終わり、俺はハルヒ特製鍋を食べに行こうとついさっきまで確かに思っていた。しかし何故だろう、今はこうして教室に居て、しかもだ。 谷口、ちょっといいか。 何故か谷口に話しかけている。どうしちまったんだ?俺は。 「ん」 帰り支度も終わっていざ教室を出ようとした谷口は、呼び止めた俺に不審な顔を向けている。 さて、俺は何でお前を呼び止めたんだったかな。と、考える前に何故か口は動いていた。まるで、いつもそうしていたかのように。 なんだか知らないがお前と勉強する気になったんだが。 「はあ?何言ってんだ?」 谷口も国木田も目を丸くしている。そうだよな、終業式も済んだ今日ほど勉強とは縁遠い日はないよな。そう俺も思うさ、でもな?何故か 今日はそんな気分なんだよ。 自分でもよくわからんが、まあたまにはいいだろ。俺だけ勉強して赤点仲間を失って一人になるのは辛いと思うぞ? 「脅かすなよ……まあいいか、よくわからんが俺も今日は勉強してもいい気がしてるしな」 意外な事にこの誘いに谷口も乗ってきた、これは大雪でも降りだしそうな気がしてきたぜ。ああ、そうだ。何故か国木田も誘わなきゃいけない気がしてきた。 国木田、悪いけど俺と谷口の勉強を見てくれないか? 「え?うんいいよ。どこで勉強するつもりなの、ここでやる?」 鍋の事なんか完全に忘れていた、本当だぜ?俺は思いついたままに口を開いていたのさ。 そうだな、文芸部の部室はどうだ? 朝倉涼子の誰時 終わり
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涼宮ハルヒの憂鬱 SubTitle Source Size crf fps time 第08話 「笹の葉ラプソディ」 TVS 235MB - 5.66 fps - 第12話 「エンドレスエイト」 TVS 335MB 21 5.13 fps - 第13話 「エンドレスエイト」 TVS 252MB 21 5.17 fps - 第14話 「エンドレスエイト」 TVS 274MB 21 5.10 fps - 第15話 「エンドレスエイト」 TVS 296MB 21 5.14 fps - 第16話 「エンドレスエイト」 TVS 297MB 21 5.16 fps - 第17話 「エンドレスエイト」 TVS 303MB 21 5.18 fps - 第18話 「エンドレスエイト」 TVS 269MB 21 5.17 fps - 第19話 「エンドレスエイト」 TVS 279MB 21 5.26 fps - 第20話 「涼宮ハルヒの溜息I」 TVS 335MB 21 5.31 fps - 第21話 「涼宮ハルヒの溜息II」 TVS 299MB 21 5.37 fps - 第22話 「涼宮ハルヒの溜息III」 TVS 343MB 21 5.03 fps - 第23話 「涼宮ハルヒの溜息IV」 TVS 259MB 21 6.75 fps 1h28m54s 第24話 「涼宮ハルヒの溜息V」 TVS 207MB 21 8.00 fps 1h14m58s -第08話 「笹の葉ラプソディ」 新作、噂はホントだった!!それにしても回りくどい広告のやり方 [涼宮ハルヒの憂鬱 第08話 「笹の葉ラプソディ」.mp4] (1pass) using cpu capabilities MMX2 SSE2Fast SSSE3 FastShuffle SSE4.1 Cache64 profile High, level 4.1 slice I 452 Avg QP 18.93 size 43727 PSNR Mean Y 49.04 U 51.40 V 51.32 Avg 49.58 Global 49.30 slice P 11500 Avg QP 20.04 size 12282 PSNR Mean Y 47.49 U 50.11 V 50.21 Avg 48.18 Global 47.93 slice 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複線回だと思えばいいのか? 今回からOPがついた、巷で聞くほど、悪くは思わないけどなー。 まぁすごく良いとも思わないけど。 [涼宮ハルヒの憂鬱 第12話 「エンドレスエイト」.mp4] (1pass) using cpu capabilities MMX2 SSE2Fast SSSE3 FastShuffle SSE4.1 Cache64 profile High, level 4.1 slice I 440 Avg QP 17.49 size 61802 PSNR Mean Y 49.66 U 50.79 V 50.73 Avg 49.88 Global 49.39 slice P 21323 Avg QP 18.13 size 10751 PSNR Mean Y 48.22 U 49.98 V 49.99 Avg 48.67 Global 48.22 slice B 16620 Avg QP 22.51 size 3068 PSNR Mean Y 47.43 U 49.75 V 49.70 Avg 48.00 Global 47.16 consecutive B-frames 22.7% 50.9% 18.5% 5.6% 2.3% mb I I16..4 44.4% 35.0% 20.6% mb P I16..4 5.2% 0.0% 2.5% P16..4 31.3% 3.1% 6.3% 0.0% 0.0% skip 51.6% mb B I16..4 0.7% 0.0% 0.4% B16..8 15.2% 0.5% 0.7% direct 2.0% skip 80.5% L0 24.6% L1 70.0% BI 5.5% 8x8 transform intra 6.8% inter 38.3% direct mvs spatial 99.9% temporal 0.1% coded y,uvDC,uvAC intra 40.1% 48.4% 18.8% inter 11.6% 7.3% 0.4% ref P L0 90.3% 5.5% 4.2% ref B L0 87.7% 12.3% AQ Result Bright MB 9.01% QP Up 57.56% Down 9.08% AQ Result Middle MB 41.96% QP Up 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キョン「なあハルヒ、お前将来の事とかちゃんと考えてるのか?」 ハルヒ「なによいきなり、あんたらしくない」 キョン「少しは現実的に考えろよ、元気なのはよろしいがそれだけじゃ生きていけんぞ」 ハルヒ「あたしはね、現実的とか普 キョン「そんな事を言ってられるのは中学生までだ」 ハルヒ「そ…それは…そうだ、古泉くんはどうなのよ」 古泉「僕も涼宮さんにはちょっと付き合いきれませんね、非常に残念ですが…」 キョン「ということだ、朝比奈さんも長門もここに来る事はないだろう」 ハルヒ「えっ…ちょっとどういうことなの!?説明しなさい!」 キョン「じゃあな、後は1人で頑張ってくれ」 古泉「それでは失礼します」 ハルヒ「待ちなさい!これは団長命令 バタン! ハルヒ「………なによみんなして…うぐっ…悔しい…」 ハルヒ「キョン大好きっ!うりうり~♪」 キョン「ハルにゃんもかわいい~♪」 古泉・みくる・長門「…」 そして… 古泉「皆さん、同盟を組みましょう、このままでは危険です」 みくる「ああ、いいぜ、だが恨みっこはなしだぜ」 長門「わかった…」 翌日 ハルヒ「みくるちゃ…熱っ!!」 みくる「ひゃ!お茶こぼしちゃいました~☆てれりこてれりこ(爆)」 古泉「あっと!すみません、足が引っかかりました」 ハルヒ「もう…なんなの…」 長門「…」バンッ! ハルヒ「痛…もういい、帰る!」 古泉・みくる・長門(…成功) キョン「あれ?ハルヒはいないのか?」 古泉「さっき帰りましたよ…それよりたまには僕と遊びませんか?」 キョン「そうだな…たまにはオセロでもやるか」 キョン「実は俺も昨日夢見たんだ」 ハルヒ「??どんな夢よ」 キョン「俺が見た夢はな、学校の敷居内にお前と二人で閉じ込められてな・・・最後にキスする夢だよ」 ハルヒ「それ!私も見た!!さっき言ったけど・・・実は悪夢じゃないんだ」 キョン「いや悪夢だろお前とキスする夢なんて、お前もう俺の夢に出てくんなよ気持ち悪いから」 ハルヒ「・・・・・・」 キョン「おいハルヒ、窓から飛び降りてくれ」 ハルヒ「は?何言ってんの?」 みくる「と、飛び降りた方がいいとおもいまぁ~しゅ☆」 長門「涼宮ハルヒは窓から飛び降りる」 古泉「そうですね、僕も賛成します」 ハルヒ「ちょっと…みんなどうしたの?」 一同「涼宮ハルヒは窓から飛び降りる…涼宮ハルヒは窓から飛び降りる…涼宮…」 ハルヒ「ねえ、悪い冗談はやめてよ」 キョン「うるさい、飛べ!飛び降りろ!」 みくる「今すぐ飛び降りてくださ~い!!」 ハルヒ「ほ…本気なの?」 古泉「言っても無駄なようなので僕が突き落とします」 キョン「よし、俺も手伝うぞ」 ハルヒ「ちょ…やめて!本当に落ちちゃう!あ…危ない!ねえ!」 キョン「3、2、1…それっ!」 ハルヒ「あっ……… ドサッ 突然飛び降りた事になっていたハルヒが完治して学校に来ている あのことは忘れたのか久しぶりに部室にやってきた ハルヒ「やっほー!涼宮ハルヒ復活!!」 「…」 ハルヒ「団長が復活したのよ?もっと喜びなさい!」 キョン「ああ喜んでるよ…またおまえを痛めつけられるんだからな…」 キョン「なあみんな、嬉しいよな!?」 みくる「はい、また涼宮さんをいじめられるなんて…すごく嬉しいです!」 ハルヒ「え…?」 古泉「まだわからないんですか?」 古泉はハルヒの腹を殴った ハルヒ「ごはっ…げほ…」 古泉「おっと、声を出されては困りますね、口を塞がなくては」 ハルヒ「ん…んん!」 みくる「怖いんですか~♪それぇ!」 朝比奈さんはハルヒの首を絞めている ここでついにハルヒはあの時のことを思い出してしまったようだ そしてハルヒは失禁したのだ そこで俺達は手を止めた キョン「さてどうする?」 古泉「…そうですね、目を離していた時机に後頭部を強打…という事にしましょう」 キョン「それはいいな、じゃあ早速…」 そしてハルヒが気絶したと職員室に駆け込み、ハルヒは救急車で運ばれていった 翌日ハルヒは学校に来なかった またしばらく入院することになったか不登校なのか… しかし俺達は奴を引きづり出していじめるつもりだ ハルヒ「私ついていくよ~ど キョン「ついてくんな」 ハルヒ「目を見てこr キョン「見たくねーよ」 ハルヒ「私覚悟~しt キョン「キモイからさっさと消えろ」 ハルヒ「… …Gyao」 キョン「キメェwwwwwwww」 ハルヒ「私のプリン食べた?」 キョン「知らん」 ハルヒ「私のこんにゃくゼリー食べた?」 キョン「うざい」 ハルヒ「私のフルーチェ食べ」 キョン「死ね」 ハルヒ「・・・」 キョン「あ、朝比奈さ~んちょっとお茶行きませんか~?そうそう古泉と長門も誘って! ハルヒ?さぁあいつは今日は見てませんねそれはそうと行きましょうよさぁさぁ」 ハルヒ「あぁ・・・くやしい・・・・くやしいのに・・・(ビクンビクン」 岡部「時間がないから自己紹介は名前だけなー」 ハルヒ「涼宮ハルヒ ただの人間にはky」 岡部「はい次ー。」 キョン「なあハルヒ」 ハルヒ「何よ?」 キョン「おまえのポニーテール、やっぱ全然似合ってないな」 ハルヒ「!………ふぇえんっ、キョンなんて嫌い!大っキライ!!」 「おいハルヒ、目のした蚊に食われてるぞ」 「そうなのよ、痒くて痒くて堪んないのよ」 「ちょっと待ってろ、今薬塗ってやるから」 「ほら、目閉じろ・・・」 「へっ、変なことしないでよね/////」 「ほらっ、動くなよ」 「うん・・・・・」 「はい、塗りおわったぞ・・・・」 「ありがとう、キョ・・・・・・・目がっ!!目がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」 「涼宮さんどうしたんですかぁ?。めがっさめがっさなんていっちゃってwキョンくんに薬塗ってもらえるなんて、羨ましいですぅ」 「・・・・・・・何塗ったの?」 「タイガーバーム」 ハルヒ「な……なんなのよぉ……!? なんでみんなそんなこと……わわ私、違うわよぉ……!!」 キョン「ヤ~リマン、ヤ~リマン」 長門「ヤ~リマン、ヤ~リマン」 古泉「ヤ~リマン、ヤ~リマン」 ガチャ みくる「あ、もうみんな来て……な、なにしてるんですか?」 バッ キョン「ヤ~リマン、ヤ~リマン」 長門「ヤ~リマン、ヤ~リマン」 古泉「ヤ~リマン、ヤ~リマン」 ハルヒ「……や……ヤ~リマン、ヤ~リマン」 みくる「……!?」 みくる「なな、なんなんですか……? やややや、ヤリマンってなんですかぁ……?」 キョン「ヤ~リマン、ヤ~リマン」 長門「ヤ~リマン、ヤ~リマン」 古泉「ヤ~リマン、ヤ~リマン」 ハルヒ「ヤ~リマン、ヤ~リマン」 みくる「そ、それにさっきはみんな涼宮さんに言ってたじゃないですか……!!」 ハッ!! キョン「ヤ~リマン、ヤ~リマン」 長門「ヤ~リマン、ヤ~リマン」 古泉「ヤ~リマン、ヤ~リマン」 ハルヒ「ちょちょっと!! なんで私のほうに……!? ちょっとみくるちゃん!!」 みくる「ヤ~リマン、ヤ~リマン」 ハルヒ「ハッ!?」 ハルヒ「キョン!」 キョン「ん?どうしたハルヒ?」 ハルヒ「一度しか言わないからよく聞いてなさいよ。……キョンあたしと付き合いなさい! (やったわ!とうとう言ってやったわ////)」 キョン「はあ?何言ってんだお前は?」 ハルヒ「だ、だからあんたのことが好きだって言ってんのよ! (もうバカキョン!察しなさいよ////)] キョン「そういう意味でなくてだな。どうして俺がお前なんかと付き合わねばいかんのだ」 ハルヒ「え?」 キョン「大体だな俺はもう長門と付き合ってるんだ。お前と付きあえるわけが無いだろ」 ハルヒ「う…嘘」 長門「本当」 ハルヒ「有希!」 長門「彼と私は随分昔から恋人関係気づかなかったのはあなただけ」 ハルヒ「そ、そんな…」 長門「鈍すぎる。憐れ」 ハルヒ「有希!あんた…」 古泉「実は僕たちも付き合ってるんですよ」 ハルヒ「!?」 みくる「あのー涼宮さん本当に気づいてなかったんですか?」 キョン「気づいてたら毎日毎日俺たちを部室に集めるだなんて無粋なこと出来やしませんよ」 みくる「それもそうですね。でも、よかったです」 ハルヒ「な、何がよかったの?」 みくる「だってこれからは涼宮さんに気兼ねなく遊びに行けるじゃないですか」 ハルヒ「え…?」 古泉「そうですね。いや~よかった。まさか涼宮さんそれでも僕たちの邪魔をするだなんて言いませんよね?」 ハルヒ「え?あの、その、もちろんよ…」 長門「よかった。これからはいつでもあなたに甘えられる」 キョン「おいおい、長門。俺はいつだってよかったんだぜ」 古泉「さあ、自由になったことだしダブルデートといきませんか?実は知り合いがオープンしたばかりのレストランのディナー券が4枚あるんですよ」 キョン「お、ナイスだ古泉!長門、いや有希もそれでいいか!」 長門「(コクリ)」 みくる「わぁ~楽しみですぅ~」 古泉「では行きましょうか。あ、涼宮さんはお気になさらずにSOS団の活動に励んでください」 キョン「じゃあなハルヒ。お前もいつまでも馬鹿やってないで恋人でも見つけるんだな」 ハルヒ「待ってキョ バタン! ハルヒ「一体何なんだってのよ、もう………。グスン、また一人になっちゃった…」 長門「あなたには羞恥心が足りない…」 ハルヒ「…」 長門「聞いてるの…」 ハルヒ「申し訳ありません…善処します…」 長門「早朝、この部室でしている自慰行為の声も大き過ぎる」 ハルヒ「…今後注意します…」 長門「何より彼に対する好意が露骨…過剰…目障り…」バキ! ハルヒ「…」 長門「…この状態が続くようなら薬の投与を増やさなければならない…」 ハルヒ「…」 みくる「でもでも長門さん、これ以上増やしちゃうと致死量越えちゃいますよぉ?」 長門「構わない」 ハルヒ「…」 みくる「え~?でもお~このブス死んだら私達とキョン君との接点、無くなっちゃいません?」 長門「問題ない…彼は私の虜…もうこの女は用済み…」 ハルヒ「…」 長門「…ふひっ!ころす…ころス…殺す…死ね!死ね!死ね!」 ハルヒ「なんか甘いもの食べたいわね・・・・・・・・・!!!キョン!!ゼリー買ってきなさい!」 キョン「わかった、行ってくる」 ハルヒ「何よ、妙に聞き分けがいいじゃない」 キョン「・・・・・・」 キョン「ほら、買ってきたぞ」 「朝比奈さんには杏仁豆腐。長門、おまえにはムース。あと古泉、バナナプリンで我慢してくれ」 「あと、ハルヒは一口ゼリーだ」 ハルヒ「なかなか気が利くじゃない、そっれじゃあいっただっきまーす!」 ハルヒ「いっただっきまーす!」 パクッ ムシャムシャムシャ ハルヒ「蜂蜜の味かしら?なかなか美味しいわ」 「これなんて名前なの?」 キョン「カブト虫の餌」 ハルヒ「ねえキョン・・・・・夢のなかでしてくれたこと覚えてる?」 キョン「記憶にございません」 ハルヒ「ほら、ポニーテール好きだって言ってキ、キスしてくれたじゃない///」 キョン「記憶にございません」 ハルヒ「あっ、映画撮ったときさ、みくるちゃんが【キョン】「記憶にございません」 ハルヒ「じゃ、じゃあs【キョン】「記憶にございません」 _ __ _ 〈 r==ミ、くノ i 《リノハ从)〉 从(l|^ ヮ^ノリ キョンキョ~ン ヾ ノ ハつ京ハつ くっヽ_っ キョン「なんだ…用なら後にしてくれないか」 _ __ _ 〈 r==ミ、くノ i 《リノハ从)〉 从(l|#゚Д゚ノリ キョンってば!聞きなさいよ!! ヾ ノ ハつ京ハつ くっヽ_っ キョン「………」 _ __ _ 〈 r==ミ、くノ i 《リノハ从)〉 从(l|゚ ー゚ノリ キョン……ねぇ… ヾ ノ ハつ京ハつ くっヽ_っ キョン「…もういい、出て行く」 _ __ _ 〈 r==ミ、くノ i 《リノハ从)〉 从(l| T-Tリ キョン…うぅ… ヾ ノ ハ京ハ くOUUつ 「この中に、宇宙人、未来人、超能力者がいたら私のところに来なさい。以上」 「…涼宮」 「何よ」 「鏡を見てみろ、宇宙人が映ってるぞ」 ハルヒ「みくるちゃん、お茶!」 みくる「はぁ~い、ただいま」 キョン「おいハルヒ…上級生に頼むならもう少し丁寧な物言いをしたらどうだ。すみません、朝比奈さん」 ハルヒ「あたしは団長だから一番偉いの。学年なんて関係ないわ」 みくる「お待たせしました、どうぞ…キョン君はこっち、涼宮さんはこっちです」 キョン「ありがとうございます。美味しいですよ」 ハルヒ「なにこれ、あたしのは水じゃないの?!」 キョン「えぇ?」 みくる「ふふ、生意気な下級生はカルキ臭い水道水でも飲んでろですぅ」
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『涼宮ハルヒの憂鬱』(すずみやハルヒのゆううつ)は、谷川流のライトノベル『涼宮ハルヒシリーズ』を原作とする日本のテレビアニメである。日本では、2006年4月から7月にかけて独立UHF局を中心とした11の放送局の深夜枠で全14話が放送された。2007年7月7日に第2期の制作が発表され、その後「新アニメーション」として再び制作が発表された。2009年4月よりあらためて[1]放送されている。 登場人物 スタッフ 主題歌
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第七章 俺たちは30分ほどで学校に着いた。 そしてやっぱり神人が暴れていて校舎もめちゃくちゃだったし、校庭には神人に投げ飛ばされたと見られる校舎の残骸が投げ捨てられていてこの世の風景とは思えないようだった。 ハルヒはもうどうしていいのかわからないようにこう言った。 「ねえ、キョン。いったい学校に来てどうするつもりなの?」 「わからん。とりあえず校庭のど真ん中に行こうと思う。」 ど真ん中とはお察しの通り俺とハルヒが昔キスをした場所だ。 そこに着けば恐らく何らかのアクションが起きるはずなのだ、そうでなければあの未来人や朝比奈さんが止めるはずである。 俺はハルヒを半分無理やりど真ん中に連れて行った。 そのとき、ポケットに入っていた金属棒が金色に柱のように光りだし、ハルヒと俺を光の中に入れた。何がどうなってるんだ。 俺は慌ててポケットから金属棒を取り出した。 これでハルヒが普通の人間に戻ったのか? もちろんそんなわけは無く、その金属棒にひびが入った。 ピキピキ…割れていく。 中から茶色い棒が出てきた。 俺の嫌な予感は的中し、金属棒の中からポッ○ーが… やはりそうか。 ポッ○ーゲームか、それでキスしろってのか。 ハルヒは察したのか俺からポッ○ーを奪い取り口に加えて目を閉じた。 俺も目をつむりポッ○ーをくわえたそのとき、前のときのような光が世界を包み俺たちを元の世界に返した。 たまたまグラウンドはどの部活も使用してはいなかった。 あれ?朝比奈さんやら古泉やら長門やらはどこに行ったんだ? 閉鎖空間に閉じ込められたのか?だとしたら神人が全部消滅するまで空間は消滅しないはずである。 だとしたら朝比奈さんたちはどうなる。 いやハルヒの能力が消えたのだから閉鎖空間も消滅したのか?古泉は何も言ってはいなかった。 その時、後ろで俺を呼ぶ声がした。 「キョン君!」 朝比奈さんである。あの未来人と(小)方もいる、気絶したまま(大)にかつがれてるが…。 「朝比奈さんたち、どうしてここに?」 「古泉君に言われたんです。学校に向かってくださいと。これも規定事項ですし。」 「そうですか。」 この時ハルヒがあることに気付いた。 「有希は?」 そうだ長門は?朝倉と交戦中のはずのやつはどこに言ったんだ。 その問いには朝比奈さんが答えた。 「長門さんはあと1分ほどでここに現れるはずです。朝倉さんって人を倒して。」 よかった。 じゃあ古泉はどうなったんだ。 まさかあのとんでも空間に閉じ込められたままなのか? 長門がやってきた、古泉の事を聞いてみる。 「古泉一樹は閉鎖空間に残り、自爆して全て倒すつもり。」 自爆?自爆ってあれか?ボーンってなって死んじまうあれか? 「そう。」 古泉はどうなるんだ。 「死ぬ。」 どうにかならないのか。 「ならない。そうしなければ世界が滅ぶ。古泉一樹は世界を守るために死を選んだ。」 くそっ、俺の許可なしで死にやがって。 ハルヒは悲しい顔で「私のせいよ、私が転校生が来て欲しいなんて思ったから。だから古泉君は…」 落ち着けハルヒ。お前は何も悪くないし古泉のことは悲しいが今はこの状況を何とかすることが先決だ。俺たちを助けてくれた古泉のためにもな。 長門。朝倉はどうなった。 長門はいつぞやのカマドウマのとき同様、校門を指を刺した。 「すぐそこ。すぐ倒す。もう余裕は無いはず。」 その直後、校門から高速で何かが走ってきた。勿論。朝倉である。 朝倉は長門めがけて突っ込んできた。 不謹慎かもしれんがターゲットが長門でよかった。 ターゲットが俺なら一瞬でことは終わっていたからな。 長門は校庭のど真ん中で戦闘をおっぱじめた。 轟音が鳴り響く。 轟音で朝比奈さんが目を覚ました。 「ふえ?ここどこですか?あれ?この人私にそっくり。誰なんですか?そっちの男の人も。古泉君はどこいったんですか?」 なんというか、どっから説明していいのか。 とりあえずここで目を覚ますのは朝比奈さん(大)にとって来てい事項なんだろうか。朝比奈さん(大)に目配せしてみる。 朝比奈さん(大)が頷いた。 俺はいまいち状況を理解できていない朝比奈さんに説明した。 「この人は今の朝比奈さんよりも未来から来た朝比奈さんです。恐らく今まで朝比奈さんに命令を出してたのもこの人です。」 「え?そんな、まさか。」やっぱりと言うかなんと言うか、やはり混乱した。一応孤島のときのこともあるので古泉のことは伏せておいた。 朝比奈さん(大)が口を開く「そうです、私は未来のあなたです、いろいろな指令をいつも出していたのも私です。それからキョン君、この騒動が終わったらこの子にこの子がするべきことを全て教えてあげてください。」 「え?わかりました。」どういう意味だろう。七夕のときや一週間後の朝比奈さんが来たときの手紙のことを教えてあげればいいのだろうか。 長門が交戦中にも関わらずこっちを向いて叫んだ。「ダメッ!!」 すると「確かに頼みましたよ。」といって朝比奈さんの後ろで盾になるように大の字になった。 その瞬間である。鉄砲か何か、もしかしたら光線銃のようなものかも知れない。 一線。 俺の盾となってくれた朝比奈さんは倒れた。飛んできたであろう方向からは何も見えない。 血まみれになって倒れた朝比奈さん(大)を支えてあげる。「これも規定事項ですから…」 そう言って朝比奈さんは目を閉じた。 俺はハルヒに叫んだ。「朝比奈さんに見せるな!!!」 ハルヒは急いで朝比奈さんに抱きつき視界をふさぐ。 だが何もかも遅い。朝比奈さんは泣きじゃくり倒れこんでしまった。 ここで突っ立って傍観していた未来の俺が地団駄を踏み口を開いた。 「まさか!クソっ!それで未来を守ったのか。クソっ!」 そうか。朝比奈さんが朝比奈さん(大)を認識することで現在と未来がつながったのか。 それなら俺と未来人の時でも同じことが言えるのだが恐らくハルヒが生み出した不安定な未来なので朝比奈さんが朝比奈さん(大)を認識することで上書きされたのか。 恐らくこの未来人の規定ではここで朝比奈さんが死に、朝比奈さん(大)の存在に矛盾を出すためだったのであろう。 と言うことは未来人戦はこちらの勝利である。大きな犠牲を払ったが。 とち狂ったように未来人が言った。「もうお前ら全員殺してやる。」 おいおい未来の俺よ。なに言ってやがんだ。 その時、突然空が無数の点により暗くなった。 なんだありゃ。いろいろありすぎてわけがわからん。 第八章
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ストーリー参考:X-FILESシーズン1「ディープ・スロート」 ハルヒがX-FILE課を設立して3ヶ月がたった。 元々倉庫だったところをオフィスにするため机を運んだりなんだりと 最初のうちはバタバタと忙しかったが、最近はようやく落ち着いてきた。 その間にもハルヒは暇を見てはX-FILEを読み漁っていた。 なお、X-FILE課は副長官直属の課となったため、事件性が見出せれば アメリカ中どこにでも出張できる。 まあ、この点に関しては退屈なデスクワークから開放されたことを ハルヒに感謝しなきゃな。 そうそう、ハルヒの世界に与える能力だが、古泉曰く高校卒業時には もはや消失していたらしい。 ハルヒ観察の任務であった長門がいなくなった点から見てもその通り なんだろう。 結局、最後の最後まで各自自分の正体をハルヒに明かさず、長門に 至っては「任務」と言う言葉をハルヒに伝えただけだった。 ハルヒとしてはどこかの諜報員とでも思ったに違いない。 それで政府が存在を隠しているとか考えたのかもしれないが。 故にハルヒ自身はまだ宇宙人・未来人・超能力者に会ったことが無いと 思ってるわけだ。 しかし、気になることがある。 古泉の「機関」はハルヒの後始末などを目的とした組織なのに未だ 健在、長門に至っては「別の任務」と言っていた。 そしてそれは意外な形で俺たちの前に現れることになる・・・ ワシントンD.CのFBI本部から少し離れたバーでハルヒと待ち合わせをしていた。 「遅いぞハルヒ。」 「キョンにしちゃ早いじゃない。なんなら1杯奢ってあげようか?」 「おいおい、まだ昼間だぞ。」 そんなやり取りをし空いた席に着き注文を済ませた。 その後ハルヒが1束の書類を俺に手渡してきた。 「なんだこれは?」 「エレンズ空軍基地の軍人の1人が行方不明になっているという情報よ。」 「軍のことなら軍に任せておけばいいじゃないか。」 「それがそうでもないのよ。この件に関しては軍は家族にすら詳細を 明かしてないの。それを不審に思った家族がFBIに捜索願を出してきたのよ。」 「軍にも何か事情があるんだし、怪我とかで治療してるんじゃないか? で、家族に心配かけまいと何も言わないように本人が言ってるとか。」 「それじゃもっと変よ。それに、私この件について1ヶ月間捜査してたの。 もちろん軍からは何も得られず。それに妙なことに先日上から捜査中止 命令が出たわ。」 破天荒な捜査をしているから中止命令が出たんじゃないかと言おうと思ったがやめた。 「それにこのエレンズ空軍基地ではおかしなことに63年から6人の飛行士が 行方不明になってるのよ。どう考えたっておかしいでしょ。」 「それに関しては噂を聞いたことがあるな。ロシア領空を誤って通過して 撃墜されたとか・・・まあ、噂の域を出ないが。」 「とにかく、何かを隠蔽しようとしていることは確かだわ。だから2人で アイダホに向かうわよ!」 「ちょっとまて。この件とX-FILEとどう関係がある?お前の守備範囲は 宇宙人など超常現象だろ。ただの失踪事件じゃないか?」 「なんとなく勘が働くのよ。絶対に何かあるわ!」 そういうとハルヒは席を立ちトイレのほうへ向かっていった。 しかし、勘だけで動くところはSOS団にいたころとまったく変わって ないな・・・などと懐かしく思ったりもした。 私がトイレに入ろうとしたとき、初老の男性がいきなり声をかけてきた。 「失礼、涼宮捜査官。率直に言おうこの事件から手を引いた方がいい。 その方が身のためだ。」 「なんですって?」 「軍はFBIの介入を望んでいない。」 「あなたは一体何者?」 「私は・・・君達の仕事に関心を抱いている者だ。力になりたいと 思っている。」 「どうして私達のことを知っているのかしら?」 「立場上政府に関することは何でも知っている。いろいろな情報が 入ってくるのだよ。」 「あなた一体誰?職業は?」 「そんなことはどうだっていい。君とキョン捜査官の身を案じるから こそ言うんだ。残念だが事件のことは忘れたまえ。」 「それは出来ないわ。」 「君達にはもっと大切な仕事があるだろう。せっかくの才能を無駄に するもんじゃないな。」 そういうと男性は人ごみの中へ消えていった。 わたしが呆然と立ち尽くしていると近くからキョンが、 「おい、ハルヒどうした?」 「ううん、何でもないわ。」 (あの男性は一体何者なのかしら・・・敵?味方?) そう考えながら私はトイレに向かった。 どうも気になる。 あのハルヒが普通の失踪事件に興味を見出すとは思えない。 そう思った俺はFBI本部の資料室で過去の新聞を調べてみた。 --エレンズ空軍基地 UFOのメッカに-- やはり超常現象か・・・ 確認するためハルヒに電話をかけてみた。 「もしもし、ハルヒか。」 『何よ、キョン』 「おまえ、俺に何か言い忘れてるだろ?」 『言い忘れてることって?』 「おまえ、アイダホに行くのはUFOが目的じゃないだろうな?」 キョンからの電話に雑音が入ってる!私は電話に雑音が入っているのを 聞いた後家の窓の外を見た。 黒いバンが外に止まっていた。 (盗聴されてるわ・・・) 「聞いてるのか?出張旅費が下りたのは捜査の為だぞ。科学雑誌に 投稿するような報告書書くのはごめん被るぞ。」 『キョン、電話ではまずいわ。明日飛行機の中で説明するわ。』 そういうとハルヒは電話を切った。 次の日、アイダホに着いた俺たちは早速依頼人の家に向かった。 そこでは失踪した軍人が以前からかぶれのような症状を訴えて いたこと、またある日から急に性格が変わり奇妙な行動を取ったり どなりちらすなどをするようになったことを伝えられた。 また、依頼人と同じような現象にあったという人を教えられ 依頼人と共にその人の家に向かった。 そこで見た光景は、まさに精神疾患にあった男性だった。 その男性の夫人話ではストレスによるものだろうと言っていたが・・・ その後、依頼人から軍の連絡先を教えてもらい、こちらも 泊まっているモーテルの電話番号を教えておいた。 「キョン、あれってどう思う。」 「やはり夫人の言うとおりストレスによるものなんじゃないか。」 「でも、彼らはベテランのパイロットでしょ?ストレスに対する 免疫は一般の人に比べればはるかに高いと思うけど。」 「聞いた話なんだがこのあたりでは『オーロラ計画』と言う名前で 新型飛行機のテスト飛行を行ってるらしい。その計画の重要性から 重圧に負けてストレスがたまったんじゃないか。」 「それはありえないと思うわ。だって依頼人の家の写真見た? 大統領からも表彰されるほどの腕前のパイロットよ。それほどの 腕なら何だって乗りこなせると思うわ。」 確かにハルヒの言うとおりだ。 男性の症状から見ても極度の恐怖や拷問などで無いとならないような ものだった。 一体ここでは何が起こってるんだ・・・ 「とりあえずエレンズ基地に行ってみましょう。」 ハルヒはそういうと車をエレンズ基地へ向かわせた。 車をエレンズ基地のフェンスのそばに置き近くの高台からエレンズ 基地を観察してみた。 「特に目立ったものは無いな。」 「あたりまえじゃない。そんなものがあったら全然秘密じゃないわよ。」 ハルヒの言うとおりだ。 俺とハルヒは夜までエレンズ基地を観察していた。 途中、SOS団の時の活動などの思い出話もしたりした。 「結局、有希はなんだったのかしらね。」 「さあな・・・」 いまさら宇宙人でしたと言っても納得しないだろうな。 と、まあ話し込んでいるうちに深夜になった。 眠りこけていると突然ハルヒが、 「ちょっとキョン起きなさいよ!」 「なんだよ・・・何かあったのか?」 「基地の上空を見てみて。」 基地の上空の空を見ると2つの光が空を舞っていた。 「普通の飛行機なんじゃないのか?」 「よくみてなさいよ。ほらあれ!」 ハルヒが指差すと2つの光はおおよそ普通の飛行機では考え 付かないような動きで飛び、最後に交互にきりもみ飛行しながら雲の上に消えていった。 「なんなんだありゃ・・・」 「とにかく中に潜入できないかしら・・・」 そうハルヒが言った瞬間、フェンスの中から男女がフェンスの 裂け目と思われるところから急ぎ足で出てきた。 逃げようとする男女をハルヒが、 「FBIよ、止まって!止まらないと撃つわよ。」 と威嚇し男女のカップルと話をすることが出来た。 カップルの話によると今日見たような光景は日常茶飯事で見られ、 中にはもっとすごい飛行をするときもあったという。 また、行った事はないがフェンスから15Kmほど離れたところに 格納庫らしきものがあるとも言っていた。 ただ、今日は普通ではヘリで追いかけられることもないのに、 なぜか突然ヘリが現れ一目散に逃げてきたと言う。 ある程度話を聞いた後2人別れ、ハルヒと共にモーテルへ戻った。 戻ったときにはすでに朝だったが。 フロントに行くと、依頼人から夫が家に帰ってきたと言う伝言を受けた。 さっそくハルヒとともに依頼人の家に行くと、依頼人である夫人は 「この人は夫じゃない!」と泣きはらしていた。 俺とハルヒは色々と質問をして本人かどうか確かめてみたが、やはり 本人らしい。 しかし夫人は「どこか夫とは思えない」という。 釈然としないままとりあえず失踪人は帰ってきたので依頼者宅を後にする。 「キョン、どう思う?」 「わからん。おれには普通にしか見えなかったのだが・・・」 「でも、基地でのことを質問するとなぜか不自然な答えが返って きたわよね・・・」 「そういえばそうだな・・・」 「もしかして、記憶を操作されたんじゃないかしら。」 「そんなば・・・」 「そんなば・・・なに?」 「いや、ありえんだろう。」 「そうかしら。キョン、早速今日の夜にエレンズ基地に潜入して みましょう。なにかわかるかもしれないわ。」 「ああ、そうだな・・・」 記憶操作か・・・長門たちの専門分野だったな・・・まさかとは思うが・・・ 俺は一抹の不安を胸に車へと乗った。 夜、ハルヒと共にエレンズ基地に潜入した。 情報通り15Kmほど離れた場所に格納庫らしきものがあった。 一筋の光が漏れている。そこから中を覗けそうだ。 早速ハルヒは中を覗きこんだ。 「なによこれ・・・凄いわ・・・」 ハルヒは驚愕しながらもカメラのシャッターを押し写真を撮っていた。 「キョン見なさいよ、これ。」 ハルヒに言われ中を覗くと・・・UFOらしき物体があるではないか! 「これは一体・・・」 「UFOに間違いないわ。写真に収めたし物的証拠もばっちりよ。」 「テストパイロットたちはこれを操縦したためにあんな目にあった のか・・・」 「たぶんね。」 俺たち2人は隙間からUFOと思しき物体をまじまじと見ていた。 そのため近づいてくる人影に気がつかなかった・・・ そうあの人影に・・・ 「そこまで....」 小さな声が聞こえ俺とハルヒは後ろを振り向いた。 そこにいた人物は・・・長門有希そのものだった! 「有希・・・有希じゃない!なぜこんなところに?」 長門は何も答えない。 「どうしたんだ長門!俺達のこと忘れちまったのか?」 俺がそう言うと、 「あななたちは見てはいけないものを見てしまった....」 「よってこの場で抹殺する....」 ハルヒがあっけに取られた顔で長門を見ている。 「なぜ・・・なぜなの有希・・・」 そうハルヒが言った途端、長門の両腕にブレードのようなものが 出現した。 早く逃げなければ!恐らく別の兵士もすぐに迫ってくるに違いない。 俺は呆然とするハルヒの手を取り元来た道をダッシュで逃げようとする。 「ハルヒ逃げるんだ!今の長門には俺たちの言葉は通じていない!」 「でも・・・でも・・・」 「いいから速く!」 俺とハルヒは猛ダッシュで逃げた。 途中ハルヒはカメラを落としてしまい、 「あ、カメラが!」 「今回は諦めろ!今は命が大事だ!」 カメラを見た瞬間長門が呪文を唱えている光景が見えた。 やばい!空間封鎖でもするつもりか! と、驚愕していると途中で呪文が途切れ、 「舌かんだ....」 俺とハルヒはその言葉を聞くとあっけに取られた。 が、すぐに我に返り逃げる。 「逃がさない....」 そういうと長門はこっちに向かってダッシュしてきた! 長門のスピードでは追いつかれるのも問題だ!まずい!まずい! そう思いながら走り続けていたが一向に長門が迫ってくる様子が無い。 恐る恐る後ろを見ると最初の長門のいた位置から10mほどのところで 長門がこけて倒れている。 どうやら絡まった雑草に足を引っ掛けたようだ。 「うかつ....」 チャンスだ!俺はハルヒの手をつかみ猛ダッシュで走った。 「戦闘モード変更。長距離狙撃モード....」 そうつぶやくと長門の手はバズーカー砲のようになっていた。 げ!あんなのに撃たれてはまず助からない! そう思った瞬間前方に人影が見えた。 よく見ると意外な人物・・・それは喜緑江美理だった! 両方に囲まれ万事休す!そう思ったとき、 「2人とも早くこっちへ遮断フィールドを張ります!」 その言葉を聞き俺とハルヒはすぐさま喜緑さんの元に向かった。 遮断フィールドが張られた直後長門からすさまじいビーム砲が フィールドに当たった。危機一髪だった。 「あなた方を車まで転送します。そのあとは出来る限り迅速に逃げて!」 「なぜあなたが俺たちを助けてくれるんですか?なぜ長門は俺たちを・・・」 「今は説明している時間はありません。いずれ分かるときが来ます。」 そう喜緑さんがいうと次の瞬間には俺とハルヒは車の中にいた。 「ハルヒ!車を出せ!急ぐんだ!」 「わかってるわよ!」 そういうとハルヒは猛ダッシュで車を基地とは逆の方向へ走らせた。 その頃基地では長門の下に兵士が集まっていた。 「追いますか?」 「いい....物的証拠は何も無い。」 「わかりました。では各自引き上げます。」 そういうと兵士はカメラを取り上げフィルムを出し燃やした・・・ そして喜緑江美理の姿も消えていた。 次の日、俺たちはワシントンD.CのFBI本部のオフィスにいた。 「なんで有希が私たちを殺そうと・・・しかも初対面みたいな 態度で・・・」 ハルヒは自分の席で悲嘆にくれていた。 「しかもまるで宇宙人みたいな感じで・・・喜緑さんも・・・」 ハルヒは自分の力を失った後も長門たちの正体を知らなかった からな・・・ 「ハルヒ、多分長門には何か事情があるに違いない。喜緑さんも 言ってたじゃないか『いずれ分かるときが来ます。』と。」 しばしの沈黙の後ハルヒはいつもの元気な声で、 「そうね!私達がX-FILEを追う限りきっと答えは見つかるわ! 絶対にね!」 「そうだな。俺達で真実をつかむんだ。」 「あたりまえでしょ!私を誰だと思ってるのよ!涼宮ハルヒよ!」 妙な自信を持ってしまったハルヒだが、まあこれでいいんだろう。 しかし、長門の「別の任務」とは一体・・・ 次の休日、私は家の近所のグラウンドでジョギングをしていた。 そこへ以前現れた初老の男性がまた姿を現した。 「命を落とすところだったな。これからはもっと慎重に行動するんだな。」 「そうね、考えておくわ。」 「まあ聞け、今後も利害が一致する場合には君に情報を提供しよう。」 「あなたの目的はなんなの?」 「君と同じ、『真実』さ。」 「あそこで見たもの、一体なんだったの?」 「UFOの技術・・・かな。」 「涼宮捜査官、1つ教えてもらいたい。君は確固とした証拠も無いのに なぜ宇宙人の存在を信じてるのかね?」 「それは・・・存在を否定する証拠もまた無いからよ。」 「そのとおり。」 「やっぱり彼らはいるのね?」 「もちろんだとも。ずっとはるか昔の時代からね。」 そういうと男性はグラウンドから姿を消した。 「有希や喜緑さんもやはり宇宙人なの・・・?」 私は一人グラウンドの真ん中で放心状態で考えていた・・・ <再会・終> 涼宮ハルヒのX-FILES おまけ2 ハルヒ「まさか有希が本当に襲ってくるとはね。」 キョン「喜緑さんが出てくることも意外だったな。」 ハルヒ「あの男って一体何者なのかしら。」 キョン「作者設定では最後には正体は;y=ー(゚д゚)・∵. ターン」 ハルヒ「キョン!いやあ!死なないで!」 ???「このスモークチーズで助かるにょろよ!」 ハルヒ「あなたは・・・鶴屋さん!」 鶴屋 「あたしって出てくる役割あるのかなぁ・・・」 キョン「というドリームをみた。」 ハルヒ「たぶん鶴屋さんには出番無いかもね。」 鶴屋 「にょろーん・・・」 キョン「作者はヘボで気まぐれなんで大目に見てやってください。」 次回 涼宮ハルヒのX-FILE あったらお楽しみにw 次へ